そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
『うなぎって……お前、やけに豪勢だな!? 最後の晩餐(ばんさん)か!?』

 最後の、って。何か死んじゃいそうだからやめてよ。

 でもね、寛道(ひろみち)、食べたの(どん)じゃなくて(じゅう)なのよっ!
 ふふふ、スゴイでしょ?と心の中で勝手に優越感に浸っていたら、

『なぁ花々里(かがり)。ところでお前、今どこにいんだよ? 昨日の夜、母さんからお前んトコにおかず持ってけって言われてアパート行ったら電気ついてなかったんだけど……? うなぎ食いに行ってたにしちゃ夜中にもう一回(もっかい)行ってみた時もいなかったし……。どう考えても不在、長すぎだろ? 部屋前の名札(プレート)もなくなってたし……』


 そこで言葉を区切って、まるで内緒話みたいに寛道が小声で言うの。

『お前、もしかして夜逃げでもしたか?』

 って。

 寛道の言葉に、私は瞳を見開いた。

「え、ちょっと待って。プレートなかったって……本当?」
 それってもう、部屋の中には何も残ってないってことかな。
 何かその感じだと、既に退去手続きとかも済んでたり……?

 私、まだ鞄の中にアパートの鍵、持ったままなのに、嘘でしょう?

 こちらの戸惑いを察したみたいに、寛道が息を呑む気配がした。
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