そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
花々里(かがり)?」

 と、急に立ち止まってしまった私をいぶかしんだ頼綱(よりつな)に呼びかけられて、早くおいで?と急かされるように手を引かれた。


「あ、あのっ、私やっぱり……」


 帰る!って言おうとしたら、頼綱の背中越し、縦格子(たてごうし)の引き戸にシンプルな生成(きな)りの(はん)暖簾(のれん)が掛かっているのが見えた。


 暖簾があるってことはやっぱりお店だったんだ!とホッとした私は、現金にもそそくさと頼綱の横に並んだ。


 暖簾(のれん)には墨でさらりと書き流したような流麗な文字で「あまみや」と書かれていて――。

 せっかく暖簾があるというのに、何のお店なのかも分からないとか……残念すぎる!って思ったの。

 例えば私の大好きな鰻屋(うなぎや)さんなら、屋号より「うなぎ」というニョロリとした文字を掲げてくれていた方がヨダレを誘う。
 うどん屋さんならうどんの絵柄。お寿司屋さんならそれをにおわせるイラストか、寿司の文字。

 そういうの、大事。


 でもこれじゃ、ある意味私が我が家の前に「むらかげ」って表札を掲げているのと大差ない気がして。


 商売する気、あるのかしら?と他人事(ひとごと)ながら心配になってしまう。
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