そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「なっ、何ですかっ」
 言うと同時に親指にヒヤリとした何かを押し当てられて、そのまま名前を書いた横にポン、と。

 あ、()()()ついた。

 理解の追いつかない頭でぼんやりその書類を眺めたら、署名と赤いの――あ、これ拇印(ぼいん)ってやつじゃないの?――が載っかった欄に、小さく「妻」という文字が見えて。

 ん?

 ちょっと待って、ちょっと待って! これってもしかして――。

御神本(みきもと)さん……」
 バシッと署名したばかりの用紙を押さえようとしたら、わずかばかり遅かった。さっさと回収されてしまう。

「何度も言わせるな。俺のことは頼綱(よりつな)と呼べ」

 そそくさとそれを折り畳んで内ポケットに仕舞いながら、「後日証人欄にキミのお母様に署名捺印と同意の旨明記いただこう。証人のあと1人はまぁ何とかなる」とか。

「――さぁ、約束通り召し上がれ」

 この話はここで終わり、とばかりにさっさと話題を切り替えられて、私は条件反射みたいに「いただきます」をしてうなぎをひと口ぱくり。

 ……してる場合じゃなーい!

 そんなんじゃ誤魔化されないんだからねっ?

 一生懸命大好きなうなぎをもぐもぐしながら、御神本(みきもと)さんを睨みつける。睨みつけながらもうひと口パクリ。
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