そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
***

花々里(かがり)

 ロビーの喧騒を全部取っ払って、その声は私の耳に届く。
 さして大きな声で呼びかけられたわけでもないのに、本当不思議。

頼綱(よりつな)

 ロビーに掲示された時計を見ると13時半を過ぎていて。寧ろ14時に近いんじゃないかという時刻。
 白衣を(まと)ったまま、首から「夏ヶ丘医科大学附属病院 小児科 研修医 御神本(みきもと)」と書かれたバーコード付きの職員証をぶら下げた頼綱は、紛れもなくここのお医者様なんだな、と思って。
 いつもとは違う雰囲気に、彼の名前をつぶやくなりぼんやり見惚れてしまう。

 それに〝医科〟って付いてるけど……〝夏ヶ丘〟ってことは……もしかしてうちの大学と同系列だったり?


「花々里?」

 そんな私の顔を覗き込んで視点が絡んだのを確認すると、頼綱が「昼は食べたかい?」と聞いてきた。

 私はその声に小さくうなずく。

 幸い大学でお昼に食べようと、昨夜の残り物や今朝のおかずの残りに、ウインナーや卵焼きを足した特製のお弁当を持参していた。

 お弁当作りは御神本(みきもと)家にお世話になる前からの日課で、作るのは全然苦じゃない。ばかりか、むしろ最近はアパートに住んでいた頃よりかなり内容が豪勢になって、幸せなくらい。

 以前は小さな1段のお弁当箱を使っていた私だけれど、こっそり2段重ねのお弁当箱にグレードアップしたぐらい。

 御神本(みきもと)家にきてから、お弁当に入れられるおかずの種類が沢山増えて、あれもこれも詰め込みたくて選べないんだものっ♪
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