そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「ごめんなさいって言ったのは、もう手遅れだって意味だったのっ」

 照れ臭さのあまり回りくどい物言いをしてしまったせいで、頼綱(よりつな)に変な勘違いをさせたことに、自分で自分が嫌になる。


「――手遅れ?」

 その言葉が更に話をややこしくしてしまったと、頼綱のつぶやきから悟った私は慌てて言葉を(つむ)いだ。


「わっ、私ねっ! 小さい頃にすごくすごく大好きだったお兄さんがいたのっ!」

 今や名前はおろかその人の愛称も……。そして顔すらも思い出せないけれど。
 その人が、ある日突然自分の前から姿を消してしまったことが、幼心(おさなごころ)にすごく辛くて悲しくて。
 それが、自分でも信じられないくらい深い傷になっているのだと言うこと。
 そのせいで、特別な人なんてもう2度と作るもんかと(かたく)なに心に誓ったことなどを、ぽつりぽつりと頼綱に告白した。


「頼綱と一緒にいると……私、どんどん貴方なしではいられなくなっていく自分を感じて……。あの時の二の舞になっちゃうんじゃないかと不安だったの。だから――。自分は雇われ人で、頼綱は雇用主だと割り切ることで、自分の弱さにフタをしようとしたの」

 頼綱はあのお兄さんじゃない。
 同じように美味しいもので私の心を溶かしたからと言って、この先たどっていく末路まで一緒だとは限らないのに。

「私、頼綱があのお兄さんみたいに私の心を掻き乱すだけ掻き乱して……急にどこかへ行ってしまうんじゃないかと考えると……怖くて怖くて堪らなかったのっ! だから――絶対に貴方のこと、好きになんてなるもんか!って思ったの」
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