そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「そうだな。俺のタラの芽(とりぶん)を味わったその可愛い唇で、()()にキスしてくれるとかどうだろう?」

 チョンチョン、と自分の唇を指先で指し示したら、途端花々里(かがり)が真っ赤になって「そっ、そんなのっ、む、無理に決まってるっ」と大慌てで全否定するんだ。

 その全力でフルフルと首を振る仕草が、怯えた小動物みたいで本当に愛しくて。
 俺の花々里はなんて初心(うぶ)でオクテなんだろうと微笑ましく思う。


「じゃあどこなら平気なのかな?」

 それでも対価をもらうことだけは譲れないんだよ?と言外に含めたら、ソワソワと泣きそうな顔で俺を見つめてきた。


「ほ……」

 ややしてポツンと小さくつぶやかれた声に、俺は全神経を傾ける。

「ほ?」


 聞き返したと同時、(かす)めるように花々里の柔らかな唇が頬に触れて。

 え?と思った時には「はい、おしまいっ!」とシャッターを降ろされてしまった。


 ねぇ、花々里、今ので終わりとか本気で言ってるの?


 俺はあまりの電光石火ぶりに一瞬固まって、でもすぐにいいことを思いついてニヤリとする。
< 607 / 632 >

この作品をシェア

pagetop