そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜

本文

 生まれてきた赤ちゃんを見て、頼綱(よりつな)が「よく頑張ったね、花々里(かがり)」と(ひたい)にかかる髪をそっと避けるようにして、汗ばんだおでこをやんわりと(ねぎら)うように撫でてくれた。

 初産としては教科書通りのいいお産だったと、助産師としての自分がささやく反面、これで初産のママたちに、「安産で良かったですね」と声かけをしていた自分を「ごめんなさいっ。今度から言いません!」と反省しきりの新米ママの自分がいた。

 だって、杉本先生に「息んでいいですよ」って言ってもらえるまでが、すっごく長くてしんどかったんだもん!
 赤ちゃん、準備してきた「鰻の小手毬お握り(いくさめし)を全部食べ切ってもまだ生まれて来てくれなかったんだから。

 傍目(はため)に見るのと、自分が当事者になるのとでは大違い。

 お産はやっぱり大変なんだと、私は身をもって思い知ったの。

 でも、腕に託された赤ちゃんの顔を見ると、そういう諸々(もろもろ)が全て吹き飛んで、ただただ「可愛い」という気持ちが湧き上がってくるから不思議。
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