そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 どう見ても私、ピンチだと思うのに八千代さんってば「では(わたくし)はそろそろお休みさせていただきます。お風呂の始末は頼綱(よりつな)坊ちゃまからお聞きしていただいて……よろしくお願いしますね」とスタスタと立ち去ってしまおうとするの!

 ああ、待って! 八千代さん!!
 行かないでっ。助けてぇぇぇーっ!

 私は眉根を寄せて、八千代さんの後ろ姿に向かって必死で叫んだ。

「八千代さんっ!! とっ、鶏肉のミンチはありますかーっ!?」

 ――明朝使いたいのでっ。

 あ、あれ、違う!!
 叫ぶべきはそれじゃない。
 そう思ったけれど、言った言葉は取り消せないの。

 私の声に立ち止まって振り返っていらした八千代さんが、いきなり何事かときょとんとしたお顔をなさったあとで、
「――大丈夫ですよ。あったと思います。ではお休みなさい、花々里(かがり)さん」

 にっこり笑って立ち去ってしまった。

 あああ。
 私のバカ!
 何でここでひき肉!
 いや、もちろん材料確保(それ)も大事だけど、現状を打開した後でよかったじゃないっ。

 結局、自力でどうにかするしかなくなってしまった。

「あ、あのっ。よ、り、つな、手……」

 言ったら、何を思ったのかグイッと引っ張られて、彼の腕の中にスッポリ収められてしまう。
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