そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 パニック状態の頭で何とかそこまで考えて、でもこの人いま、裸じゃなかった!?って恐ろしいことに思い至って硬直する。

 浴衣(ゆかた)って案外生地が薄いの。

 抱き抱えてくれている頼綱(よりつな)の腕の筋肉や、思いのほか着痩せしていて着衣の時には分からなかった胸筋の感触がダイレクトに伝わってきて、何だかめちゃくちゃ恥ずかしい。


「あ、あのっ、ちゃんと歩けるので降ろして下さっ……」

 目を白黒させながら言ったら、「あんな壁伝いにノロノロこられて、おまけに転ばれそうになったんじゃ敵わんよ。――却下だ」と至極まともな返しをされて。

「ご、ごめんなさい」

 心の中でそっと……「踏んづけた石けんは高級なやつじゃありませんでしたか?」と付け加えつつ、しゅんとして素直に謝ったら「いや、最初からこうしなかった俺も悪い」とか。

 最初から()()は……さすがに私、全力で抵抗してたと思いますっ。

 時に石けんのことを言われないのは……そこはお(とが)めなしだと思ってもいいですか?
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