或いは誘蛾灯のような
「え?」
そもそもここが何を商っている店なのかも、僕はよく分かっていない。
それなのに告げられた、彼女の半ば確信めいた物言いに、僕は思わず頓狂な声を出す。
「家、お暑いんでしょう?」
「……は、はいっ」
「それで、ここには涼みにいらっしゃった。……違いますか?」
僕の目を、吸い込まれそうに深い黒瞳で見つめると、彼女が言う。
情けないことに、全く以って、かの人の言う通り。
僕は恥ずかしくなって、思わず顔を俯けた。
しばし後――。最初に沈黙を打ち破ったのは彼女だった。
「あ、申し遅れました。私、ここの店主をしております――」
言いながら細く白い指に挟まれて差し出された名刺は手漉き和紙製……。そこに、振り仮名つきで『幽現屋 店主:久遠桜子』と記されていた。
まさか一見で入ってきたような客に名刺などを渡してくれるとは思ってもいなかった僕は、手渡された名刺にどぎまぎとしてしまう。
それに、何より彼女は美しかったから。
「あ、ぼ、僕は……笹山……、笹山康介です」
あいにく名刺は持ってきていなかったので、とりあえず名乗りだけ。
緊張して舌を噛みながらしどろもどろに自己紹介した僕に、久遠さんがくすり……と笑う。
そもそもここが何を商っている店なのかも、僕はよく分かっていない。
それなのに告げられた、彼女の半ば確信めいた物言いに、僕は思わず頓狂な声を出す。
「家、お暑いんでしょう?」
「……は、はいっ」
「それで、ここには涼みにいらっしゃった。……違いますか?」
僕の目を、吸い込まれそうに深い黒瞳で見つめると、彼女が言う。
情けないことに、全く以って、かの人の言う通り。
僕は恥ずかしくなって、思わず顔を俯けた。
しばし後――。最初に沈黙を打ち破ったのは彼女だった。
「あ、申し遅れました。私、ここの店主をしております――」
言いながら細く白い指に挟まれて差し出された名刺は手漉き和紙製……。そこに、振り仮名つきで『幽現屋 店主:久遠桜子』と記されていた。
まさか一見で入ってきたような客に名刺などを渡してくれるとは思ってもいなかった僕は、手渡された名刺にどぎまぎとしてしまう。
それに、何より彼女は美しかったから。
「あ、ぼ、僕は……笹山……、笹山康介です」
あいにく名刺は持ってきていなかったので、とりあえず名乗りだけ。
緊張して舌を噛みながらしどろもどろに自己紹介した僕に、久遠さんがくすり……と笑う。