或いは誘蛾灯のような
「こちらのランプ、灯すと部屋の温度がグッと下がるんです」
 一瞬、彼女の言葉の意味が理解できなくて、僕は止まってしまう。
 (つむ)がれた言葉の意味を理解してからも、頭の中は疑問符だらけで。

 からかわれたのかと思って久遠(くおん)さんを見つめてみたけれど、彼女は至極(しごく)真面目に見えた。

「あ、あの……それはどういう?」
 結局、散々考えて、僕は素直にそう聞いていた。

「百聞は一見にしかずですわ。今ここで試してご覧にいれましょう」

 そう言うと、彼女は油壺をオイルで満たし、
「オイルが染み込むまでほんの少しおきます」
 言って、二分ぐらい放置した。
 それからホヤを外して横のシリンダーを少し回すと、オイルの染み込んだ芯を気持ち長めに出す。マッチを()ってそこに火を灯すと、シリンダーを回して炎の調節をしてから、ホヤを元通りに戻した。

 店内の照明はもともと暗めだったからか、明かりを消さなくても色付きガラスのホヤ越し、青い炎がゆらゆらと揺らめく様が良く見えた。

 と、ホヤを被せて全てのセッティングが終わったと同時に、室内の温度が急激に下がり始め――。
 元々エアコンが効いていたこともあって、僕はゾクリと身体を震わせると、思わず両腕を撫でさすった。二の腕には、寒さからくる鳥肌が立っていた。
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