或いは誘蛾灯のような
「ね? 言った通りでしょう?」

 僕の反応を見て満足そうに微笑むと、久遠(くおん)さんはシリンダーを回して芯を慎重に引っ込める。

「余り引っ込めすぎると芯が油壺の中に落ちてしまいますのでこの作業は慎重に。それから……使用中や使用直後はホヤの部分、とても熱くなっていますので火傷しないように気をつけてくださいね」

 何やら説明が既に持ち帰ること前提になっているような?

 久遠さんの物言いが気になった僕だったけれど、実際はこの不思議なランプが欲しくて堪らないと思うようになっていた。

「お幾ら……なんでしょうか?」

 アンティーク風で、油壺の部分には手の込んだ細工が施されている。さぞや値が張るんだろうな。

 部屋にエアコンのひとつも取り付けられないような僕だ。さすがに一万円以上と言われたら手が出せない。

 恐らくそれ以上の価値があるんだろうと思いながらも、聞かずにはいられなかった。

御代(おだい)()りません。このランプが、笹山(ささやま)様と帰りたがっていますので」

 が、僕の予想に反して、久遠さんはそう言って微笑んだ。

「……それに、だってほら、使ってしまいましたし……」

 ランプを手に僕を見つめると、にっこり微笑む。

 いや、そういう問題ではないだろう。

 彼女の茫洋(ぼうよう)とした掴みどころのない表情を見つめて、僕は心底戸惑った。それに、ランプが、僕と帰りたがっているという台詞も気になった。

「もしも無料(タダ)、では笹山様のお気が済まれないとおっしゃるのでしたら……そうですね。こちらの専用のオイルを一緒に買ってくださいな。一リットル入りで千六百円です」

 彼女の手にしたボトルが、パチャリ……と小さな水音を立てる。

 僕はその音に押されるように、思わず「はい」と(うなず)いていた。
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