政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
井垣会長が俺に話を持ち掛けたところから始まった。
その事実は変えられない。
俺が彼女に愛を囁いたところで嘘だと思われて終わるだろう。
今、俺ができることは彼女のそばにいることだけだ。

「朱加里。今日から、俺のマンションで一緒に暮らすけど」

「えっ……!」

「嫌だった?」

「い、いえ、その……突然すぎて」

どうだか。
俺は笑顔を浮かべたが、それは表面上だけ。
マンションに向かうため、車に乗った。
樫村が戻るのを二人で待っていたが、朱加里は無言だった。
なんとなく、面白くなくて窓の外を見ていたが、朱加里から話しかけてくる様子はない。

「朱加里は俺と一緒に暮らすのは嫌なのか?」

「お祖父さんが死んだら、壱都さんから婚約を解消されると思っていたんです。だから、心の準備ができてなくて……その……ごめんなさい」

嘘をつけばいいのに彼女は馬鹿正直に心中(しんちゅう)を口にした。
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