政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
今はしかたないが、いつか明るい色の物を着てくれるといい―――せっかく用意した服もまだ袖を通していないようだし。
彼女に対してなにをすれば、喜ぶのかさっぱりわからない。

「壱都さん、あのっ、わたしっ」

ハッとして、紗耶香さんを見た。
考え事をしている場合ではなかった。

「ここで壱都さんの帰りをずっと待っていたんです。会いたくて……」

寒空の下で、ずっと待っていたわりに血色がいい。
震えながら、目から涙をこぼし、見上げてきた。
男心を理解しているな―――と思った。
けど、それだけだ。
樫村なら『壱都さんの方が上手にできるんじゃないですか?』などと、気色悪いことを言ってきそうだ。

「そうですか。風邪をひきます。樫村に送らせましょう」

「お話したいことがあるんです。朱加里のことで」

「朱加里のこと?」

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