政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
離さないでいて
マンションの部屋に戻っても、ずっと壱都(いちと)さんは不機嫌なままだった。
けれど、なぜ怒っているのかわからなかった。
夕飯の買い物にでかけて、帰ってくるとマンションの前には紗耶香(さやか)さんがいて、壱都さんの前で泣いていた。
まるで二人は恋人同士みたいで遠くから見てもお似合いだった。
胸が痛んだ―――壱都さんのことは嫌いじゃない。
自分を助けてくれる人を嫌いになんて、なれるわけなかった。
でも、沙耶香さんが壱都さんを好きなことも知っていたし、自分が平凡な外見だってことも理解していた。
そして、今となっては壱都さんと一緒にいるということは井垣財閥を継ぐということになる。
私が井垣の家を継ぐ?
そんなことできる?
使用人として生きてきたのに教養も立ち振る舞いもなにもかもが、すべて紗耶香さんのほうが上ではないの?

「紗耶香さんに俺を譲るのかな?」

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