政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「……ちゃんと就職しますからね」

働きに行かせないつもりだろうか。
春までには自由に外出できる身になっているといいんだけど。

「はい、井垣ですが」

『井垣朱加里さんですか?面接をした人事部長です』

「はい」

『春からの採用だが、なかったことにしてほしい』

「どうしてですか」

『井垣社長から、うちの社長に電話があってね。ひきとった娘はとんでもない娘だったと。財産を盗んだと大騒ぎしてね』

「盗んでいません!」

『財産が入ったなら、働く必要もないだろう。井垣社長が採用するなら、圧力をかけると言ってきた。すまないね。こっちも井垣グループから契約を切られるわけにはいかないんだよ』

「そんな……!」

ぷつ、と通話が一方的に切れた。
呆然としていると、壱都さんが肩をつかんだ。

「どうかした?」

「朱加里さん。顔色が悪いですよ」

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