政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「母が病気だったので」

「そうか」

それ以上は何も聞かれなかった。
その方がありがたかった。
まだ母が亡くなったことが辛すぎて、話すと泣いてしまいそうになる。
お祖父さんの着物は茶色の牛首(つむぎ)に波の模様が入っているもので、黄色の帯には草の蔦模様が刺繍されている。

「お洒落ですね」

「普通だ」

着替えると新聞をベッドから離れたテーブルに置くと、手を差し出した。

「なんだ」

「今から朝食を持ってきます」

「ベッドで食べる」

「少し動いた方が気分も変わっていいですよ」

そう声をかけると、お祖父さんも納得してくれたのか、私の手をとって車イスに乗ってくれた。
テーブルのところまで押して新聞を渡すと、さっきまでへの字を描いていた口が優しいものに変わっていた。

「朝食をいただいてくるので、待っていてくださいね」

「ああ」

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