政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「大旦那様がお待ちです」

広い洋館の中はしんっとしていて、人の気配がほとんどしない。
歩いている足音すら大きく響き、音をたてないように歩くしかなかった。
壱都さんのご両親もお兄さん達もここには住んでいないと聞いていた。
寂しくないのだろうか。
どうぞ、と私が通されたのは洋間だった。
書斎なのか、本がずらりと並んでいる。
白河のお祖父さんは暖炉前で一人掛けのソファーに座り、うとうとしていた。
強がっていてもやはり、歳には勝てないらしい。
棚には漢方薬が置かれ、椅子の横には杖がたてかけてある。

「風邪を引きますよ」

落ちた膝掛けを拾いあげ、膝にかけると、うっすらと目を開けて誰かの名前を呼んだ。

「……さん」

はっとした顔をし、目を開けた。

「なんだ。壱都の嫁か」

何度か目をしばたかせて体を起こし、座り直した。

「なんのようだ」

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