政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「は、はい。その、離してもらっても……」

「……ああ。悪い」

私の心臓の音が壱都さんに聞こえてしまいそうな気がして、心を落ち着けようと息を吸った。
抱き締められている間、息をするのも忘れていた。

「部屋に持ってきてもらえばいいか」

「部屋に?」

「俺が宿泊している部屋。一応、断っておくけど、大学を卒業するまでは君に手は出さない。井垣会長と約束している」

「はい」

だから、安心して部屋においでということだろう。
私を抱き締めていても壱都さんは平気みたいだし、きっとこれくらいなんとも思ってない。
テディベアを抱き締めたようなものだろう。
顔色ひとつ変えないんだから、私だけが意識するのも馬鹿馬鹿しい。
壱都さんはエレベーターのボタンを押し、上の階に向かう。
着いた部屋はリビングと寝室にわかれていて、天井にはシャンデリア、暖炉と燭台、テーブルには薔薇の花が飾られている。
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