ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
「じゃあ、今日は特に用もないから、ウロウロしてたらどうだ」

「私ひとりでですか?」

 必要なら誰かつける、と桔平は言う。

「では、私が……」
と助手席から言ってくる侑李を遮り、桔平はようやくこちらを振り向き言ってきた。

「今、手が空いてるのは誰がいたかな?

 ああ、そうそう。
 運転手のじいさんと事務のじいさんと、パイロットのじいさん、どれがいい?」

 ……何故、全員じいさん。

 温厚で博識なおじいさんたちだから、観光案内によさそうだとか?
と思う真珠に、もう一度、桔平が訊いてきた。

「六十代の人と七十代の人と八十代の人。
 誰がいい?」

 単に今のおじいさんたちの年齢を言ってみたようだ。
「八十代の方までいらっしゃるのですか? 会社に」
と言うと、昔世話になった人だからと桔平は言う。

 それで雇ってさしあげているのですか。
 ちょっといい話でしたね、と思う真珠に桔平が、

「まあとりあえず観光でもしてこい。
 何処へ行く?」
と訊いてきた。

 そうですね~、と言ったとき、真珠の頭に、機内で見たニセモノの星空が浮かんだ。

「じゃあ、モルディブに行きたいです」
「……今、ドバイに着いたんだよな?」

「だって近いじゃないですか、此処から」

 私、好きなんですよ、モルディブ、と真珠は言う。
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