ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
ピンクと紫の混ざり合った空の色が海に溶け込んでいる。
桔平はそんな何処までもつづく空と海をぼんやり眺めながら砂浜を歩いていた。
仕事が一段落したので、落ち着きのない妻を追ってモルディブに来たのだ。
羽島さんも帰ってきてるし。
ひとりで寂しがっているのでは……と思ったが。
真珠は椰子の木のパラソルの下、木製のサンベッドで爆睡していた。
海に溶け込むようなアクアブルーのサマードレスから伸びた細く長い白い脚。
最初から読む気があったのかわからない英語の雑誌がブランケットのように腹にかかっている。
サイドテーブルには山盛りのトロピカルフルーツにココナッツのカクテル。
……めちゃくちゃ満喫しているようだ、と思いながら、滅多に見かけない妻を見下ろしていると、気配を感じたのか真珠は目を覚ました。
「……おはようございます」
「おはよう、夕方だが」
細かいことを言う人だな、という顔をして、真珠は起き上がる。
そして、海に沈みゆく夕日を見て驚いていた。
「夕方じゃないですかっ」
いや、今、夕方だと言ったろう……。
真珠は、一日損した、という表情だった。