ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
「いや~、飛行機でも結構寝たんですけどね。
 波の音と風が気持ちよくて、つい、うとうとしちゃって」

 日は更に落ちてきて。

 不思議な色合いの空気の中。
 他のヴィラとあちこちに生えている椰子の木が影絵のように見えて幻想的だったが、目の前の妻は、

「なにしに来たんですか?」
とロマンのかけらもない口調で訊いてくる。

「……珍しく妻が来てるんだ、会いに来ては悪いのか」

 五年もほっといたのに? という顔をするが。

 いや、お前がほっとけと言ったからだろう、と桔平は思っていた。


 

 
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