ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
「……やっぱり、鯛めしですかね」
「なんの話だ?」
いや、今朝の夢の話ですよ、と渡し船を待つ真珠は思う。
まあ、夢に出ていたのは、サメだったのだが。
つい、もし、鯛かマグロが咲いたら、と妄想してしまい、『調理するなら、鯛めし』まで行きついてしまっていたのだ。
だが、そこまでの過程を桔平に語らなかったので。
真珠は、自分が口を開いたときに、桔平がいつも見せる戸惑っているのか呆れているのかわからない表情をまた見ることになってしまった。
ちょうどそこで、真珠たちの順番が来たので、渡し船に乗り込む。
ドバイが近代化する前の景色をとどめているオールドドバイ。
そこにある伝統的な市場、スークに向かうためだ。
大きな川を渡る渡し船は、アブラという赤い屋根のついた小さな船だった。
ベンチに腰掛け、外を向いて座るのだが、船には柵もなにもない。
今にも川に転げ落ちそうだ、と真珠は緊張して乗っていたが。
桔平は桔平で、
こいつ、落ちそうだ……とでも思っているのか、真珠の腕をガシッと強く握っていた。