ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
 じゃあ、買ってやろうと言って、桔平は言い値で乳香を買っていた。

「あの……こういうところは、値切るのも醍醐味だと思うのですが」

「値切るの面倒くさいし、時間がもったいないだろ」

 しかし、この手の市場は、そもそも値切られること前提で値段がついている気がするのだが……。

 面倒くさいのも時間がもったいないのも本当だろうが。

 そもそも、この人、お店で値切ったことってないじゃないかな? と思う。

 いや、私もないんだが……と思いながら、
「ありがとうございます」
と真珠は礼を言った。

 いや、と照れかける桔平に、
「乳香って、昔は、ミルラと一緒にミイラの防腐剤に使われてたんですよね」
と言うと、

「もうちょっといい話はないのか」
と顔をしかめて言われる。

「いえいえ、歴史のロマンを感じます。
 ありがとうございます。

 ……いい香り」

 真珠はその白い石のような塊がザラザラ入った透明なケースを眺める。

 ケースの中からでも、スパイシーな甘い香りがしていた。






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