ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
 もう日は落ち始めていて。

 町は夕暮れの光で満たされ、石造りの建物はライトアップされていた。

 そこにアラビア語で礼拝を呼びかける声が流れはじめる。

 今まで見た中で一番、異国情緒あふれる場所だなと真珠は思った。

 風の塔の前にある、夕日に彩られたヤシの木を見ながら真珠は言う。

「仕事に疲れた時とか。
 異国の見知らぬ町に迷い込みたいと思うときってありませんか?

 そういうときに思い描くのって、こういう町なんですよね。

 エキゾチックな雰囲気が、ここは異国だと強く感じさせるせいか。

 すごく遠い場所のような気がするからか。

 ……私、ドバイに着いてから、ずっと夢の中を歩いてるみたいなんですよ。

 霧に包まれた近未来都市のようなドバイの街が、子どもの頃見たSFの世界みたいだったからですかね」

 そう真珠は笑ってみせた。




< 95 / 189 >

この作品をシェア

pagetop