私たちはその檻の中で
「麻里子ー!起きなさい!今日も部活でしょ!」

8月10日、6時20分。いつものように麻里子は母親の頼子の声で目を覚ました。今日も夕方までバスケ部があり、その後は来週に迫った兄の誕生日プレゼントを買うために母と渋谷に行く予定だった。
麻里子の兄、悠樹は喘息持ちで、アニメと漫画が趣味の大人しい少年だ。だからあまり外出もしないのだが、今夜は珍しく新作の特撮映画をクラスメイトと見に行くらしい。
頼子は悠樹のいない今夜、麻里子を連れて悠樹の誕生日プレゼントを選ぶつもりだった。悠樹のリクエストは最近流行りのバスケ漫画のキャラクターが履いているバッシュで、頼子には他の靴との違いが全く分からなかったから。
麻里子はあわよくば悠樹のついでに自分の新しいバッシュも買ってもらおうと、買い物について行くことを了承した。悠樹はそのバッシュでバスケをすることはないのにもったいないな、という考えがよぎったが、頼子に怒られるのは明白だったので麻里子は口をつぐんだ。

麻里子はのろのろと起き上がった。いつもと同じ、薄いピンクと焦げ茶のストライプのタオルケットが目に入る。しかし、ベッドから降りようとした瞬間、麻里子は自分の体が熱く重いことに気がついた。

(夏風邪かな。部活は休もう。買い物行けないってなったらお母さん怒るかなぁ)

とりあえず熱を測るため、リビングに向かおうと立ち上がると、背中にさらりとした感触があった。

(え?)

それは細く柔らかな腰まで届く銀髪だった。
昨日までの麻里子はバスケ部らしいショートヘアで、黒々とした髪だったのに。
声にならない悲鳴をあげると、麻里子はそのまま意識を手放した。
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