マエノスベテ
しばらくの間はロビーにてソファーに座る婦人と彼をぼくは何をするでもなく見ていた。
なんの話をするか気になるが、かといって、立ち聞きするべきか迷うのでお茶を用意したはいいが、それを置いたあとのふるまいが浮かばない。

 どうにも居心地が悪くしばらく出ていると、数分してから女性は帰り、彼がやってきた。

「どうだった?」

「とてもどうでもいい会話だったよ、そうだな、すぐ済みそうだね」

 彼は、ときどき近所から相談を受けていることがあった。
なんのためなのか、いつからなのかという話は聞いたことがあまりないが、恐らく今の様子もそれなのだろう。
ぼくの帰宅は夕方だったので、その日はそのまま夕食だった。
「綺麗な婦人だったね」

ストロガノフを食べながら呟くと、彼は「そうかもね」とたいして興味なさげな返事をする。

「『それ』よりも、明日がどうなるかと、僕は考えてるんだ」

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