マエノスベテ

 次の日の朝ぼくはいつも通りに朝食をとり、部屋の隅にある人の形をした模型に挨拶をした。いわゆるマネキンだけれど、どんな他人よりも誠実で表情豊かだと思っている。いくら待っていても、この調子は戻らないというのに知人は勝手にぼくが正気になるのを待っているため、実に不毛な数年が過ぎている。
 要は、他人とは余計なことにたいしては黙っているのが一番ということで、執拗に絡むことはそれを崩すに他ならないということ。
そしてただ淡々と日常を無感動に過ごさせることこそが何よりの妙薬だということを、もう少し検討した方が良いのだが。

 待ちつづけていることそのものが、充分に意識したストレスを与えるのに成功している。
部屋のある階から窓の外をちらりと見て息を吐いた。
そこに、見覚えのある人が腕を組んで待っている姿をみとめたからだ。

待たれると行きたくなくなるのが人の心理というもので、ぼくもやはり、地面を睨みながら不愉快そうな彼女を見ていると外に出たくないという感情がより強まっていた。

待つのは好きではない。
待つくらいなら行けばいいし、それも面倒なら帰れ。
他人を見るとよく思う。
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