マエノスベテ
「どう思う?」

ぼくが聞くと、彼はハハハと愉快そうに笑いながら持っていた新聞を閉じた。

「どうもこうも。きみは早くおせっかい叔母さんに従って、見合いに行けば良いのではないか」

「絶対に嫌だ」

他人事だと思っているのか、彼は相変わらず笑いっぱなしだ。
「いや……待てよ、今日に限っては、見合いの話じゃない、のかな」

彼は窓に乗り出すようにして街を眺めた。

「写真を持っていない、服装もやけによそいきだし、何よりあの大きな紙袋。どこかに土産でも渡してきたかな、靴もハイヒールだ。彼女は普段もう少し動きやすそうな格好をする」

注意して見てみると確かに彼女の様子は普段のそれではなかった。見ていたこちらを見つけるといそいそと向かって歩いてくる。

「おや、来る気らしいよ。困ったな、髪をとかしていない」

「そろそろ切ったらどう」

 彼は髪を背中まで伸ばしており、後ろから見ると華奢な少女のようだった。
どうやら事情があって、そうしているらしい。
しばらくして階段をずんずんと上る足音が聞こえ出してぼくたちは慌てて気持ちだけ出迎えの用意をした。
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