この華は紅く染まる
二話 ヴァンガード卿の秘密
静かな食堂には、私と顔の見えない支給係だけで静まり返っている。それを不気味に思いながら口にする料理は味気ない。
だけど、自分が生まれてこの方口にしたことが無いような豪華な食事だったので、贅沢な気分になっていた。
けれど、両親のことばかり頭によぎる。
もしここに、お父さんとお母さんがいれば楽しい食事になったと思うわ。
「ありがとう、もう良いです」
ぶどう酒を注ごうとした執事らしき人の手を止めると、彼は無言のまま引き下がった。
いつの間に忍び寄ったのか、私の隣にフランシスが立っていて、悲鳴を上げそうになる。
全く気配が無くて気が付かなかったわ。
驚きのあまり心臓が激しく脈打って、息を呑んだ。
相変わらず大人びた微笑みを浮かべているけれど……不思議な子ね。
「言い忘れました、エルザ様。このお屋敷を好きに歩き回って下さっても結構ですが、地下だけはご遠慮願います。旦那様の高価なワインを保管しておりますので」
「……分かりました。あまり人様のお屋敷をうろつくのは気が引けるけれど、まだ眠れそうに無いから」
✞✞✞
広いお屋敷なんて、馴染みが無いから申し訳ないと思いながら少しだけ散策してみた。
アンティークな家具に、美しい柄のタペストリー。
異国の本がずらりと並んだ場所は、雪が降って出られない日の暇つぶしになりそう。
窓の外を見ると、夜の闇にも負けないくらい深紅の薔薇が咲いている。
あんな綺麗な薔薇は始めてみたわ……なんて鮮やかな赤なんでしょう。
まるで、貴族になったような気分で散策していると、下に降りる階段を見つけてしまった。
この下は、フランシスの言っていた、地下室かしら?
本当はいけない事だけれど、中にさえ入らなければ大丈夫かしら。確かフランシスは中を覗くなまでは言っていなかったはず。
好奇心を抑えられず、私は冷たい地下室の階段を降りていった。
こんなに立派なお屋敷だもの。貯蔵室もきっと立派に違いないわ。
――――ギィ………。
「うっ……」
扉を開けた瞬間血なまぐさい香りがする。
一体この匂いは何かしら?
狩人が動物を捌いた後のような……。
私は、持ち歩いていたランタンを掲げると、思わず座り込んでしまった。
逆さまに吊るされたお母さんとお父さん。
その首元から血が滴り落ちて、樽の中に降り注いでいる。
どうして。
一体誰かこんな酷いことを?
私は震える足をもつれさせるようにして駆け出すと部屋へと戻った。
誰か、なんて事は考えなくともすぐにわかる事なのに。
私は体を震わせてベッドに潜り込んだ。
もし私が覗いたと知れたら殺されてしまうかも知れない。何も知らないフリをして明日の早朝にこの屋敷を抜け出そう。
私はシーツを被ると小さくなっていた。
寝静まったころに、この屋敷の当主が入ってきて同じ目に合わされたら?
けれど、旅の疲れもありいつの間にか眠りに落ちてしまった。
ふと、誰かの気配を感じで目を開けるとベッドの脇にフランシスが立っていた。
だが、その格好は小間使いには見えないほど高貴な格好で、まるで伯爵のように見える。
どうしてこの子が寝室にいるの?
私は動揺を悟られないように問い掛けた。
「フランシス……何のよう?」
「……おや、エルザ。私の気配を察して起きたのですか? それとも、吊るされた両親を見て怯えベッドの中で震えていたのですか」
私は、フランシスの言葉に青ざめ、凍りついて体を起こした。
だけど、自分が生まれてこの方口にしたことが無いような豪華な食事だったので、贅沢な気分になっていた。
けれど、両親のことばかり頭によぎる。
もしここに、お父さんとお母さんがいれば楽しい食事になったと思うわ。
「ありがとう、もう良いです」
ぶどう酒を注ごうとした執事らしき人の手を止めると、彼は無言のまま引き下がった。
いつの間に忍び寄ったのか、私の隣にフランシスが立っていて、悲鳴を上げそうになる。
全く気配が無くて気が付かなかったわ。
驚きのあまり心臓が激しく脈打って、息を呑んだ。
相変わらず大人びた微笑みを浮かべているけれど……不思議な子ね。
「言い忘れました、エルザ様。このお屋敷を好きに歩き回って下さっても結構ですが、地下だけはご遠慮願います。旦那様の高価なワインを保管しておりますので」
「……分かりました。あまり人様のお屋敷をうろつくのは気が引けるけれど、まだ眠れそうに無いから」
✞✞✞
広いお屋敷なんて、馴染みが無いから申し訳ないと思いながら少しだけ散策してみた。
アンティークな家具に、美しい柄のタペストリー。
異国の本がずらりと並んだ場所は、雪が降って出られない日の暇つぶしになりそう。
窓の外を見ると、夜の闇にも負けないくらい深紅の薔薇が咲いている。
あんな綺麗な薔薇は始めてみたわ……なんて鮮やかな赤なんでしょう。
まるで、貴族になったような気分で散策していると、下に降りる階段を見つけてしまった。
この下は、フランシスの言っていた、地下室かしら?
本当はいけない事だけれど、中にさえ入らなければ大丈夫かしら。確かフランシスは中を覗くなまでは言っていなかったはず。
好奇心を抑えられず、私は冷たい地下室の階段を降りていった。
こんなに立派なお屋敷だもの。貯蔵室もきっと立派に違いないわ。
――――ギィ………。
「うっ……」
扉を開けた瞬間血なまぐさい香りがする。
一体この匂いは何かしら?
狩人が動物を捌いた後のような……。
私は、持ち歩いていたランタンを掲げると、思わず座り込んでしまった。
逆さまに吊るされたお母さんとお父さん。
その首元から血が滴り落ちて、樽の中に降り注いでいる。
どうして。
一体誰かこんな酷いことを?
私は震える足をもつれさせるようにして駆け出すと部屋へと戻った。
誰か、なんて事は考えなくともすぐにわかる事なのに。
私は体を震わせてベッドに潜り込んだ。
もし私が覗いたと知れたら殺されてしまうかも知れない。何も知らないフリをして明日の早朝にこの屋敷を抜け出そう。
私はシーツを被ると小さくなっていた。
寝静まったころに、この屋敷の当主が入ってきて同じ目に合わされたら?
けれど、旅の疲れもありいつの間にか眠りに落ちてしまった。
ふと、誰かの気配を感じで目を開けるとベッドの脇にフランシスが立っていた。
だが、その格好は小間使いには見えないほど高貴な格好で、まるで伯爵のように見える。
どうしてこの子が寝室にいるの?
私は動揺を悟られないように問い掛けた。
「フランシス……何のよう?」
「……おや、エルザ。私の気配を察して起きたのですか? それとも、吊るされた両親を見て怯えベッドの中で震えていたのですか」
私は、フランシスの言葉に青ざめ、凍りついて体を起こした。