壊れた少女は少年にキスをする
3
五年前の三月。
ゆず葉は千尋と出会った。あの公園。アイリス公園。愛依子と千尋がキスをしたのと同じ場所。
広瀬ゆず葉の出身は東海地方だった。地元では明るくて元気な人気者。女子サッカーをやっていた。父は単身赴任。中学進学を機に、母と共に、都内へ越してきた。
初めての街。ゆず葉は不安だった。越してきて数日。近所を散歩したが余計に不安が募る。知りあいはいない。公園に来てみたが、誰も居ない。来月から中学生。ちゃんとやっていけるか心配だった。
ブランコに座ってひとりぼっち。空は晴れている。だけど心は寂しいまま。
そんな時、――声をかけてきたのは明るい少年だった。
「一人? なにしてるの?」
「あ……、あたし……、なにしてるっていうか、その」
「僕、千尋って言うんだ。なんか、困ってるんだったら、助けるよ」
「え……、あ、あぁ……、ありがとう」
「いやいや。困っている子に手を差し伸べるのは当たり前のことだから。当然だよ」
「か……、かっこいぃ……」
「え? なんか言った?」
「あ、いやっ、な、あんでもないでしゅ!?」
「……? え?」
「あ……、あの、なんでもないです」
「あはは、面白い子だね。きみって」
「そ、そんなことないよ!」
広瀬ゆず葉は、千尋をかっこいいと思った。初めての街。初めての引っ越し。知らない場所で颯爽と声をかけてくれた男の子。
王子様だと思った。
「あ……、あの、あたし四月から中学生なんだけど……」
「え? あぁ、僕もそうだよ」
「ほんと? あ、あの、小川中ですか?」
「うん。そう。きみも?」
「わぁー! うん! そうです! あたし、最近こっちに引っ越してきたばかりで、なんもわかんなくて……。あ、あたし広瀬ゆず葉って言います」
「広瀬さん……、そうなんだ。それじゃ、僕が道案内してあげるよ!」
「え? いいの?」
「うん! 僕、困っている人を助けたいって最近思ってるんだ。どこか行きたいところある?」
「じゃ、じゃぁ……、小川中。探してたんだけどどこかわかんなくて」
「あぁ、じゃあ行こうよ。ほらっ」
と千尋は手を差し出した。小さな手のひら。ゆず葉は手をとる。千尋より少し大きい手。
歩き出すと夕日が射していた。春の匂い。風が心地よかった。ゆず葉は熱い体を隠すように髪を下ろす。
恋をした。
初めての恋。
五年前の三月。
ゆず葉は千尋と出会った。あの公園。アイリス公園。愛依子と千尋がキスをしたのと同じ場所。
広瀬ゆず葉の出身は東海地方だった。地元では明るくて元気な人気者。女子サッカーをやっていた。父は単身赴任。中学進学を機に、母と共に、都内へ越してきた。
初めての街。ゆず葉は不安だった。越してきて数日。近所を散歩したが余計に不安が募る。知りあいはいない。公園に来てみたが、誰も居ない。来月から中学生。ちゃんとやっていけるか心配だった。
ブランコに座ってひとりぼっち。空は晴れている。だけど心は寂しいまま。
そんな時、――声をかけてきたのは明るい少年だった。
「一人? なにしてるの?」
「あ……、あたし……、なにしてるっていうか、その」
「僕、千尋って言うんだ。なんか、困ってるんだったら、助けるよ」
「え……、あ、あぁ……、ありがとう」
「いやいや。困っている子に手を差し伸べるのは当たり前のことだから。当然だよ」
「か……、かっこいぃ……」
「え? なんか言った?」
「あ、いやっ、な、あんでもないでしゅ!?」
「……? え?」
「あ……、あの、なんでもないです」
「あはは、面白い子だね。きみって」
「そ、そんなことないよ!」
広瀬ゆず葉は、千尋をかっこいいと思った。初めての街。初めての引っ越し。知らない場所で颯爽と声をかけてくれた男の子。
王子様だと思った。
「あ……、あの、あたし四月から中学生なんだけど……」
「え? あぁ、僕もそうだよ」
「ほんと? あ、あの、小川中ですか?」
「うん。そう。きみも?」
「わぁー! うん! そうです! あたし、最近こっちに引っ越してきたばかりで、なんもわかんなくて……。あ、あたし広瀬ゆず葉って言います」
「広瀬さん……、そうなんだ。それじゃ、僕が道案内してあげるよ!」
「え? いいの?」
「うん! 僕、困っている人を助けたいって最近思ってるんだ。どこか行きたいところある?」
「じゃ、じゃぁ……、小川中。探してたんだけどどこかわかんなくて」
「あぁ、じゃあ行こうよ。ほらっ」
と千尋は手を差し出した。小さな手のひら。ゆず葉は手をとる。千尋より少し大きい手。
歩き出すと夕日が射していた。春の匂い。風が心地よかった。ゆず葉は熱い体を隠すように髪を下ろす。
恋をした。
初めての恋。