同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
思いがけない言葉

 窪塚は一瞬驚いたように目を瞠ってから、もう堪らないというようにぎゅうっと私の身体を抱き竦め、

「あ~ヤバい。鈴のそうやってふいに素直になるとこ、メチャメチャ可愛いんだもんなぁ。鈴と会えなかった分目一杯独り占めしてもいー?」

唸り声を響かせた。そうして最後には、私に対しての優しい気遣いも忘れない。

 それはとっても嬉しいことだ。けれど……。

 こういうところが、余裕がある所以だと思えてならない。

 そういう背景があったものだから、素直に甘えようと決意したところだというのに、可愛げのない言葉を放ってしまうのが、私らしいと言うかなんというか。どうにも嘆かわしい。

「////……そ、そんなの当然でしょ。イチイチ訊かなくていいからッ!」

 条件反射で口から飛び出してしまった可愛げのない自分の言葉を猛烈に悔やみつつ、頭の片隅では、なんとか軌道修正できないものかと勘案に耽っていた。

 だって、一月ぶりにこうして一緒に過ごしているのだから、たまには素直になって甘えたいと思うし。

 こうやって一緒にいられることを嬉しいと思っているってことを窪塚に態度で示したいとも思う。

 なにより、窪塚にこれからも好きでいてもらえるように、少しでも素直になって、可愛いところもあるなと思ってもらいたい。

 そして近い将来、プロポーズして欲しい。

 というのも、来月の十二月二十三日が私の二十九歳の誕生日だからだ。

 付き合って二年目の二十代最後の誕生日。

 意識してしまうし、期待だってしてしまう。

 私たちは、結婚を前提に交際している訳だし、専門医にもなれたことだし。

 父との約束である期限も終わりにさしかかっているのだから、そろそろ結婚に向けての具体的な話があってもいいんじゃなかろうか。

 窪塚と会いたくとも会えないでいた間に、私はそうも思っていたのだった。

 去年、親友である彩が結婚したから余計だ。

 だからって、窪塚に重いなんて思われたくないから、そんなことはおくびにも出してはいない。

 それに意外と真面目で、私よりも堅物なところがある窪塚のことだから、『結婚は一人前の外科医になってから』と考えている可能性だって否めない。

 もしもそうだとすると、いつになるかわからないし、そのうち気だって変わってしまうかもしれないのだ。

 だから少しでもその気になって欲しいと思うのは当然だと思う。

 ……思うのだが、この有様だ。いつになってしまうことやら……。

 素直になりきれない自分のことを嘆くと同時に、結婚の『け』の字も口にしない窪塚のことを恨めしく思っていた私の思考を邪魔するように、相変わらず嬉しそうな窪塚の軽口が割り込んできた。

「だからさぁ、それはいつも言ってんじゃん。恥じらったり、照れたりする鈴のことが見たいんだって」

「////ーーもう、ヤダ。見ないでってばっ!」

 私の右肩に顔を乗っけたまま私の顔色を窺ってくる窪塚の熱視線に、私がこんなにも意識し、羞恥にまみれているというのに……。

 それらに堪えかねた私が放った声にも、窪塚は気にもとめない素振りだ。

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