同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
それが、私と窪塚との気持ちの温度差のような気がして、どうにもやるせない心持ちになってしまう。
気づけば私は、窪塚の腕を思いっきり振り払っていた。
「それは無理な相談だっつの。ーーおっと。あっぶね~。激おこのお姫様のご機嫌とらねーとな。よっと」
「////ーーギャッ!?」
そんな風に抗ってみたところで、長年鍛えている窪塚に力で太刀打ちできるはずもなく。おどけた調子の窪塚によって手首を掴んで呆気なく制されてしまっていた。
それだけじゃない。
窪塚は軽口をたたきながら、私のことをヒョイッと横抱きに抱え上げてしまったのだ。
突然の出来事に、久々のお姫様抱っこを堪能する間もなく、色気のない素っ頓狂な声を放った私は、あっという間に、リビングダイニングのソファへと運ばれてしまっている。
そうしてソファに腰を下ろした窪塚の身体に跨がるというはしたない格好にさせられ、窪塚の熱視線により見上げられ退路を断たれてしまった私は、羞恥に悶えつつ真っ赤になって身体を縮こめているところだ。
そこへ、満足そうな微笑を湛えた窪塚の優しい甘やかな声音が囁きかけてくる。
「こうやって、好きで好きでどうしようもない可愛い鈴のこと見つめてるだけで、どんなに疲れていても疲れなんて一瞬で吹き飛ぶんだよな」
臆面なくそんな歯の浮くようなことを言われて、どうにも面映ゆい。
窪塚の熱っぽい視線からなんとか逃れようと俯いて目を泳がせていると、不意に逞しい胸へと抱き寄せられた。
「鈴のこと早く俺だけのものにしたくてたまんねー。本当は一人前の外科医になってからじゃないとダメだと思ったけど、もう待てそうにねーわ。だからさ、鈴、俺の奥さんになってくれないか?」
そうして続けざまに耳元で囁かれた甘やかな音色と身体を通して伝わってくるいつもより速いリズムを奏でる窪塚の心音とに、熱いものがぶわっと込み上げてきて、涙が零れそうになる。
ずっとずっと欲しかった言葉をもらえたのだから当然だ。
どれほど待ちわびたことか。
感極まってしまった私は、透明な雫を零しながら窪塚の胸にこれでもかというように強く抱きついて。
「なる。圭の奥さんになりたい」
なんの迷いも躊躇いもなくそう応えていた。
すると窪塚は、ホッとしたのか安堵の溜息をついた後で。
「……はぁ……良かった。ずっと寂しい思いばっかさせてたからさ。すっげー不安だった。ありがとな、鈴。絶対幸せにするから、ずっと傍にいてくれよな。絶対後悔なんてさせねーから」
少々弱気なことを零したものの、最後にはちゃんと『幸せにする』としっかり宣言もしてくれた。
感極まってる所為で、折角のメイクがもう涙でぐちゃぐちゃになってしまっているに違いない。
そんなことにも構うことなく私は窪塚の眼前に迫っていた。そして。
「あったり前でしょ。幸せにしてくれないと一生恨んでやるんだから」
声を震わせつつも強気な言葉を返すのが精一杯だった。
「ああ。絶対幸せにする」
そのまま抱きついた私のことを窪塚はしっかりと抱きとめ、いつものようにそうっと優しく宥めるようにして、ずっとずっと背中を撫で続けてくれている。
窪塚から香ってくる甘やかな香りと優しいぬくもりとにふわりと包まれ、ふかふかな雲のうえにでも浮かんでいるような、なんともいえない幸せな心地だ、