同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。

 おそらくそれは欲情にまみれて獣と化した窪塚の攻め立ての所為で幾度となく流したものと同じ性的な涙だったに違いない。

 ようやく絶頂を迎えて楽になれると思っていた当てが外れて、悲しかったのか、落胆したのか、そんなことは、自分でもよくはわからないが、窪塚の言葉通り、きっとそれくらいのものだったんだろうと思う。

 けれどこういうセックスの時以外に関しては、窪塚はとっても優しくて、この二年間というもの、以前同様窪塚の揶揄いに、ムッとした私と冗談半分で言い合ったりすることはあっても、窪塚が本気で怒ったところなど一度として見たことがない。

 いつもいつも窪塚はさり気なく折れてくれていた。

 それについては、結婚を前提に付き合うようになってから知ったことだが。

 彩曰く、驚くことに、光石総合病院で研修医として勤務するようになってからずっと、私に対して『ビッチ』など陰口をたたく者に対して、ことあるごとに性別関係なく厳しく叱責していたらしい。

 けれど私が怒った窪塚のことを目にしたのは、セフレだった頃に同期の加納と現在専攻医となった羽田のくそワンコに対してのみだ。

 私に対しては、相変わらず口だって悪いけど、普段は勿論、こういうセックスの時にも、メチャクチャ優しく気遣ってくれていた。

 だからかもしれない。

 これまでと比較にならないくらい冷たく感じる意地の悪い言葉攻めと、ドSっぷりを遺憾なく発揮してきた窪塚の容赦の欠片もない攻め立てに、自身でも思っている以上に大きな衝撃を受けてしまったのだろう。

 折角、プロポーズしてもらえたのに、久しぶりなのに、どうしてこんなに苛められなきゃいけないのかと。

 眼前でハラハラと涙の雫を流す私の姿を見にした途端、ハッと息を呑んだ窪塚の顔から瞬く間に妖艶さが消え失せ、顔色がみるみる青ざめていく。

< 19 / 74 >

この作品をシェア

pagetop