同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
久方ぶりの甘い夜 #4
青ざめていく窪塚の顔をボンヤリ見やったままでいると、視界の中で窪塚が声にならない声をあげてすぐ、血相変えて謝罪してきた。
「ーーッ!? 鈴、泣かせてごめん」
同時にぎゅうぎゅうに抱き込まれた身体から窪塚のぬくもりと心音とが伝わってくる。
そこに加わっていく、いつもの優しさを取り戻した窪塚から何度も紡ぎ出される謝罪の言葉たち。
「久し振りで完全に我を失ってた。ホントにごねんな、鈴。ごめんな」
聞いてるうち、やっと落ち着きを取り戻した頭がある結論を導き出す。
確かに久しぶりだし、我を忘れたりする気持ちはよく理解できる。
それだけ窪塚が私に夢中になってくれていたってことでもあるのだし。
それについては、とっても嬉しいことでもある。
けどこういうときに、本音というか、本質が出てしまうんじゃないかとも思ってしまうのだ。
本当は、もっともっと私のことを苛めたいんじゃないのかと。
勿論、さっきまでの、どうしてこんなに苛められなきゃならないのかっていう気持ちだってある。
それでもやっぱり窪塚のことを想う気持ちの方が遙かに上回っているようで、窪塚の胸から顔を上げ、未だ乱れた呼吸もそのままに声を絞り出していた。
「もういいから。それより、圭は私のことを苛める方が愉しいの? もっと苛めたいとか思っちゃうの?」
我ながら、なんのひねりもないストレートな質問だ。
まさか私からそんな質問が寄こされるとは思わなかったであろう窪塚は、虚を突かれたようにポカンとしている。
「ねえ、どうなの? 結婚するんだったら、そういう性癖だって知っとかないといけないんだし、正直に話して。私も努力したいし」
窪塚の口からどんなに衝撃的なものが飛び出してきても、平気だと自分に言い聞かせつつ、内心では肝を冷やしていた。
なんとか言い終えた私の言葉で、やっと質問の意図を掴めた様子の窪塚がなにやら思案する素振りを見せてすぐに質問を返してくる。
「努力するってことは、俺が鈴のこと苛めたいって言ったら、苛めさしてくれんの?」
覚悟したばかりだというのに、耳にした刹那、緊張感が一気に高まってくる。
ーードSだとは思ってたけど、やっぱり、そういう性癖の持ち主なんだ。
今までは私のために抑えてくれていただけだったってことなのかな。
だとしたら、応えてあげないといけないんだよね、結婚する訳なんだし。
ーー愛があれば大丈夫だよね。うん、きっと大丈夫。
さっきまでショックのあまり泣いてたクセに。苛められて怒ってたクセに。
少々不安に思いながらも、もうすっかり窪塚の性癖に合わせる気になっていた。
不安を気取られないように細心の注意を払いつつ声を返すも、情けないことに僅かに裏返ってしまったが、ちゃんと気持ちは伝わったはずだ。
「……い、いいよ。圭がそうしたいって言うんなら」