同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
ーー窪塚だって『信じてくれよ』って言ってたじゃない。私が信じないでどうするのよ。
ずっとそう自分自身に対して言い聞かせてきたけれど、会えない時間が増えるにつれて、不安がどんどん膨らんでいく。
「それはそれは、ごちそうさまでした。まぁ、確かに。昔っから窪塚は鈴にゾッコンだったみたいだから、大丈夫だとは思うけど」
「昔っからゾッコンだったみたいって。それ、よく言うけど、どういう意味?」
「あー、そっか。鈴は窪塚のことをずっと敵視してたから知らないんだっけ」
「うん」
「まぁ、私も人伝で知ったんだけど。鈴が当直の日は必ず合わせてたみたいでさ。鈴が医局に籠もって勉強してたりすると、しつこい取り巻きが近づけないように、わざわざ総合内科の医局の前の長椅子で仮眠とってたりしてたらしいわよ。俺の大事な女に近づくなオーラ全開で」
「そ、そうだったんだ」
そんな複雑な心情だったところに、彩から思いがけないことを聞かされて、不安な思いが薄れていく。
さっきまで重苦しかった心が軽くなっていく気さえしてくる。
そこに彩からのアドバイスがなされて、私はあることを思いつくのだった。
「これからは結婚に向けての準備で今以上に忙しくもなるんだし。だからこそ、たまには不安な気持ちとか、寂しいって気持ち、我慢しないでちゃんと伝えておかないと、ちょっとしたことですれ違うこともあるんだからね?」
「うん。じゃあ、今日仕事終わったら、お弁当でも作って差し入れでもしてみようかな」
「あっ、それ、いいんじゃない? いっくんもコンビニ弁当とか出前ばっかりで飽きてたみたいで、お弁当メチャクチャ喜んでくれてるもん。窪塚なんて、泣いて喜ぶんじゃない? 窪塚のポーカーフェイスが崩れるとこ見てみたいから、写真よろしく」
「……写真って。そんなに喜んでくれたらいいけど」
私の提案に対して、冗談めかしてきた彩の言葉に返事を返しつつ、嬉しそうに破顔した窪塚の無邪気な笑顔を思い浮かべた私の頬はだらしなく緩んでしまう。
「な~に言ってんのよ。例の噂が出ても、騒いでんのは鈴に気がある男連中だけで。窪塚の鈴への執着ぶり知ってる者は皆、どうせガセでしょうって、右から左に聞き流してんだからぁ。それくらい鈴にゾッコンなんだもん、喜ぶに決まってるわよ。なんなら賭けてもいいわよ」
「ふふっ、ありがと」
そこへ、彩から、少々盛り気味ではあったものの、心強い言葉の数々をもらったことで、後押ししてもらった私の心はずいぶんと軽くなっていた。
今までずっと受け身で、窪塚のことを待ってるばっかりだったけど、時には自分から行動を起こして、自分の気持ちを曝け出すことも必要だよね。
ーーまたすれ違ったりしないように、窪塚に会って、不安に思ってること全部、ちゃんとぶつけてみよう。
「あっ、けど、いくら仕事が忙しいって言っても、電話だけで、鈴に会って説明もないなんて。窪塚のやつ、プロポーズOK貰ったからって、安心しきってるんだろうけど、そんなのありえないから。今後のためにも、窪塚に遠慮なんかしないで、ここはしっかりと例の噂のこと追及しときなさいよ?」
「うん。『どういうことよ!』ってしっかり問い詰めておく」
彩からの忠告にいつもの調子で即答した私は、もう迷うことなく、真っ直ぐに前だけを見据えていた。