同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
挨拶に向けて
初めての差し入れからのシンガポール行きを誓い合ったあの日から、諸々の準備を進めていたら時間なんてあっという間に過ぎていた。
予定している両親への挨拶を三日後に控えている。
諸々の準備ーーシンガポールに行くにあたっての仕事のことや両親のことだ。
因みに、クリス博士に計らいにより、実際にシンガポールに行くのは来春、四月になった。
仕事については、まだ数ヶ月の猶予もあるし、職場のトップであり親戚でもある意外に頼もしい譲院長のサポートのお陰で頗る順調に事が運んでいる。
となると、残るは両親ばかりなり。特に心配性の父をどうやって説得するかだ。
譲おじさんによれば、これまでも少しずつ少しずつ、窪塚が神の手である父親を凌ぐほどのいい腕を有し将来有望の脳外科医で、どんなに真面目で誠意ある好青年であるかをこんこんと語ってアピールしてくれているそうで。
『日本に留まらず、いつどこかから引き抜きがあったり、いい話が舞い込んでくるかもわからないとは、ことあるごとに大袈裟に言ってあるから。とっくに覚悟はできてるんじゃないかなぁ』
そう言って、最近すっかり定着してきたご自慢の白髪交じりのご立派な顎髭を大事そうに撫でつつそんなことを言ってくれていたけれど、そんなに上手くいくのだろうか。
私も窪塚も院長室の応接セットでおじさんと向かい合い、半信半疑で耳を傾けていた。
窪塚のご両親とは、クリス博士への返事を伝える段階で、既に話し合っている。
もしもうちの両親が許してくれなかった場合、窪塚のご両親も一緒に説得してくださることにもなった。
あとは、来る三日後の十九日にうちの両親と対峙する日を待つばかり。
刻々と近い付いてくる挨拶の日を目前に、私の気持ちもそわそわと落ち着かなくなっていた。