同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
無意識のうちに溜息まで零れてしまっていたらしい。
「こらこら、折角一緒に過ごしてるのに、溜息なんてつくなよ。幸せが逃げてくだろ」
それを珍しく早く仕事を上がることができた窪塚に指摘され、視線を上げて窪塚に目を向けると、とっても優しい目で見つめられて、途端に心が上向いていく。
「ごめん」
「バーカ、謝んな」
「うん」
「おっ、素直じゃん」
「へへっ」
久しぶりにかずさんの店へコインパーキングから徒歩で向かう途中だったので、手はしっかりと繋ぎあっている。
俗に言う恋人繋ぎだ。
街なかだというのに、行き交う人が途切れたのをいいことに、その手を引き寄せてぎゅっと抱きつきながら応えると、窪塚がすかさず包み込むようにして逞しい胸に抱き寄せてくれたので、たちどころに身も心もほっかほかだ。
シンガポール行きを決めてからというもの窪塚が前よりも頼もしくなったように感じられる。
それには少なからず自分のことが影響しているんだと思うと、自然と笑みが綻んでしまう。
十二月も半ばを過ぎて、身を刺すような冷たい風が吹きすさぶなか、以前にも増して逞しくなった窪塚のお陰で、寒さなんて吹き飛んでいた。
ふたりの世界に酔いしれていた私たちの元に、意外な人物からの声が届いて。
「あっれ~、どこのバカップルかと思えば、窪塚と神宮寺じゃん。こんなところで会うなんて奇遇だね~」
ふたり仲良く同時にビクッと反応して意識を向けた先には、長いストレートの黒髪と大きな瞳が印象的なスレンダー美人の腰に手を添えニッコリと微笑んでいる藤堂の姿があった。
途端に、窪塚の身体が不自然に強張ってしまう。
まさか、私の元カレだってことを意識してるのかな? いやいや、結婚どころかシンガポールにまで着いていくんだし。藤堂も彼女らしき女性同伴だし。
ーーさすがにそれはないよね。
そう思い直し、そのついでに、そういえば、ここからほど近い最寄り駅は、母校である東都医大の目と鼻の先だったことを思い出す。
同時に、医大生時代の記憶が舞い戻り、懐かしさを覚えた。
窪塚は仕事の関連で何度か会っているようだけれど、私が藤堂と顔を合わせるのは、今年の春に藤堂主催のプチ同窓会に窪塚とともに参加して以来のことだ。
だから余計に懐かしく思えたのだろう。