同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
それから、いい気はしなかった。
いい気なんてするわけないけど、元々は私がまいた種でもあるわけなので、私にどうこういう資格なんてない。
そんなことはわかってる。
わかってるけど、いくら最後まで致していないとはいえ、途中まではあったということが引っかかってしまうのだ。
キスはしたのかな、とか。
どこまでしたのかな、とか。
言い出したらキリがない。
自分の中で、鬱々としたどす黒い感情が蠢いて、何かを放ったところで碌なことにならないのは明白だ。
窪塚も、元彼の藤堂のことで、同じように思ってたんだろうな。
そう思うと余計に、何も返せないまま黙りこくってしまっていた。
やがてかずさんの店に着き、いつもの窓際のソファ席に案内されてからも、無言でメニューを眺めていた。と、そのとき。
きっと泣きそうな顔でもしてたのだろう。
さっきまでバツ悪そうに気まずげな顔をしていた窪塚が急に慌てたように私のご機嫌を取り始めた。
「ごめん。鈴。あんな話聞きたくなかったよな。その頃俺がそうだったように、藤堂が鈴に似た相手を身代わりにしようとしてんじゃねーかって、さっきも邪推して。そっちにばっか気が行ってて、気遣ってやれなくて悪かった」
どれもこれも結局は、私に関してのことばかり。
きっと中には、窪塚のことを好きだった人だっていたはずだ。
そう考えたら、やっぱりいい気なんてしないし、気になってしまう。
けどそんなこと言い出したらキリがないし、そんなことに時間を割くのは勿体ない。
「確かに、聞きたくなかった。圭がどういう理由であれ、私以外の人とキスとかしてたって思っただけで、気が狂いそうなくらいだし。でも、未だに藤堂に嫉妬するくらい好きでいてくれてるのは嬉しい。だから、帳消しにしてあげる。その代わり、浮気なんかしたら許さないんだから」
「浮気なんてするわけねーだろ。一生鈴だけだ」
「そんなのわかんないじゃない」
「いーや、断言できる。俺には鈴しか見えてねーもん」
話しているうち、お互いムキになってきて言い合っていると、そこにかずさんが加わって。
「嫉妬し合うほど仲がいいなんて羨ましいなぁ。まぁ、料理と一緒で、恋にもたまにはスパイスが必要だけど、圭にはそんな度胸はないと思うよ? 図体の割にはヘタレだし」
「かずさん、それ以上余計なこと言ったら、マジでSNSで、あることないこと吹聴しとくからな」
「おいおい、俺はお前の味方してやってんだからさ、感謝しろって」
「誰がするかよ」
「はいはい。邪魔者は消えますよ~。どうぞごゆるりと~」
かずさんのお陰もあり、すっかりいつもの調子に戻った私と窪塚は楽しい一時を過ごしてから店をあとにした。
窪塚に家まで送ってもらっている道中。
正直、こんなことはもう二度とご免だけど、窪塚の気持ちもよく理解できたし。
かずさんの言ってたように、嫉妬のお蔭で、お互いを想い合う気持ちを再確認したことで、より一層絆が深まってくれてるといいなぁ。なんてことを考えていた。