同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
まだ専攻医だった頃からの患者の中には、『鈴先生がいなくなるなんて寂しいわぁ』なんて、嬉しい言葉をかけてくださる年配のご婦人や初老の男性、若い方もいらっしゃった。
幼い頃から目指してきた外科医にはなることができなかったけれど、自分なりに一生懸命医者として頑張ってきたことを、こうして見てくれていた人もいたんだと思うと、凄く嬉しいことだし、自信にも繋がった。
医大を卒業して研修医としてここ光石総合病院で勤務するようになってから五年。
この五年の間に、本当に色んなことがあった。
そういえば、院長であるおじさんの愛人だとかいう妙な噂のせいでビッチなんて呼ばれてたこともあったなぁ。
わだかまりのせいで、同期である窪塚のことを敵視してたこともあったっけ。
でもその裏には、窪塚への長年募りに募った恋情が秘められていた。
まさか、自分が窪塚のことを好きだなんて気づきもしなかったし。
ましてや、窪塚と一夜の過ちがきっかけでセフレにされてしまうなんてことも、夢にも思ってなかった。
それが数時間後には窪塚との結婚を控えていて、もうすぐ一緒にシンガポールに発とうとしているなんて……。
本当に人生何があるかわからない。
当たり前だが、一度しかないのだから、精一杯頑張って、後悔のないようにしたい。
この三ヶ月、仕事もプライベートも充実した日々を送ることができた私たちは、今日のこの日をもって正真正銘の夫婦になろうとしている。
正確には、つい先日の一粒万倍日にもう既に婚姻届を出しているので、れっきとした夫婦なのだが、気持ちの問題だ。
昨日はお互い家族水入らずの穏やかな時間を過ごした。
かけがえのない時間を経て、迎えた三月二度目の一粒万倍日である本日。
海沿いの素敵なチャペルのバージンロードを緊張の面持ちでエスコートしてくれている父から、窪塚へとバトンタッチされて、祭壇の前に歩み出た窪塚の隣に並んだ私は、繊細な刺繍の施されたマーメイドラインの純白のウェディングドレスに身を包んでいる。
窪塚は、落ち着いたシルバーのタキシードに身を包んでいて、どこかの王子様然とした姿に私は密かにときめいていた。
少し顔も紅潮してたかもしれないけど、ベールのお陰で隠せていたはず。
緊張の面持ちで窪塚が誓いの言葉を紡ぐその声に合わせて、私も誓いの言葉を紡ぎ出す。
「私たちは、健やかなるときも病めるときも富めるときも貧しきときも、いつまでも互いを慈しみ愛することを誓います」
こうしてお互いの両親をはじめ両家の親族や親友たちの見守る中、窪塚と私は永遠の愛を誓いあった。