同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
だから咄嗟に訊きかえしていた。どれほどの抵抗を示すか確かめるためだ。
『努力するってことは、俺が鈴のこと苛めたいって言ったら、苛めさしてくれんの?』
鈴は一瞬、『やっぱり』というような顔をして、けれど不安なんて微塵も見せまいとしてか、言葉を選びつつ慎重に答えてくれたが、その声は僅かに裏返っていて。
『……い、いいよ。圭がそうしたいって言うんなら』
それでもなんとか俺に合わせようとしてくれていることが素直に嬉しかった。
だからあの時誓ったんだ。
そこまで想ってくれている鈴のためにも、自分の性癖は出来るだけ抑え込もうって。
できうる限りに、優しくしようって。
そのはずだったのに……。
そのあとすぐに再開した情事でも、プロポーズをOKしてもらったという嬉しさから、結局は我を忘れて散々鈴に無理をさせてしまう結果に終わってしまった。
それだけじゃない。
記憶は曖昧だが、いつになく積極的に情事に没頭して、俺と分身とを惑わせる鈴のお陰で、俺はずいぶんと興奮していたようだ。
俺はその時に確信した。
きっと鈴には自覚がないだけで、相当なドMに違いないと。
そう確信したものの、あの時の鈴の表情と涙とあの言葉が、今も鮮烈に脳裏と耳とにこびりついていて、離れてくれない。
そうして事あるごとに思い出してしまうのだった。
例えば、鈴の両親と対峙したときなどに。
運良くというか、鈴と親戚だった譲院長の働きかけのお陰で、結婚とシンガポール行きをあっさりと了承してもらったのには本当に吃驚したが。
それ以上に、鈴の両親の気持ちを思うと、何が何でも鈴のことを幸せにしなければいけない。という気持ちがいっそう強くなった。
それと同時に、ヘタレな部分が働いて、両親にとって愛してやまない鈴のことをドSな俺のせいで、ドMにしてしまった事に対して申し訳ないという気持ちにもなった。
もしかしたら、俺じゃなく、藤堂だったら、鈴がドMに目覚めることもなかったんじゃないだろうか。
そんなことを考えてどうなるんだ。そう思ってしまうようなことを考えもした。
そんな時だ。
上級医であり鈴の親戚でもある樹先生に、『結婚の前祝いにおごってやる』そう言って珍しく飲みに誘われたのは。
確か年が明けてすぐの頃だ。