同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。
その際に、えらくご機嫌だった樹先生がこんなことを言い出した。
『いやー、それにしてもピッタリだよなぁ。ドSの窪塚とドMの鈴が結婚するなんてさぁ。まぁ、俺は、お前らが研修医としてうちに来たときからお似合いだって思ってたし、こうなるって思ってたけどなぁ』
『え? どうしてそんな風に言い切れるんですか? 付き合ってる俺はともかく。いくら親戚でもそんなことわかんないでしょう?』
『バーカ。あーいう普段気が強い奴は、大体はドMだっつの。普段自分がそうしてるように、自分より強いドS嗜好の奴に辛辣な言葉で攻められたいって、欲求を持ってることの表れなんだって。心理学かなんかの論文で読んだことがある気がするから間違いないって』
……読んだことがある気がするから間違いない。
普段の俺なら、そんな不確かな言葉を信じなかっただろう。
『へえ、そういうもんですか。勉強になります』
けれども結婚へのカウントダウンがはじまって、もう後戻りできない時期だったせいか、俺はその言葉に縋ることにした。
だからって、鵜呑みにしたわけじゃない。
色んな事を踏まえた上で、これからの長い結婚生活の中で俺たちなりにいい関係性を築いていけばいい。そう思えるようになったのだ。
俺がドSであろうと鈴がドMであろうと、そんなことは大した事じゃない。
俺が愛する鈴のことを大切に想うこの気持ちが大事なんだ。
その想いを言動で示せばいいだけのこと。
鈴のことを俺なりに精一杯優しく精一杯愛し抜けばいい、と。
そんなこんなで迎えた三月二度目の一粒万倍日である本日ーー結婚式当日。
祭壇の前で待つ俺の元に、父親にエスコートされて歩みを進めてくる鈴の純白のウェディングドレス姿に、俺は視線どころか魂ごと奪われてしまっていた。
繊細な刺繍の施されたマーメイドラインがどうとか言ってたドレスに身を包んだ鈴は、眩いくらいに輝いて見える。
それらを言葉で表現するなら、天使か女神か。
兎に角、この世の者とは思えないほどに綺麗だった。
ーー速くその純白なドレスを脱がして俺だけのものだということを鈴が許しを請うまで、その綺麗な身体の骨の髄まで嫌というほど容赦なく徹底的に刻み込みたい。
神聖な場だというのに、不届きな俺の頭に、そんな不埒な思考がチラついていた。
あんなに苦悩し葛藤してきたというのに、骨の髄までドSな俺はどう足掻いてもドSな本能に抗うことはできないようだ。
これはきっと、鈴に家族水入らずの時間を少しでも多く過ごしてもらおうと、週末の逢瀬を返上していたお蔭でずっとお預けを食らっていたからに違いない。……多分。