私、今度こそあなたに食べられません! ~戻ってきた俺様幼馴染ドクターと危ない同棲生活~
ちょうどくるみの勤務先だと言う薬学部に向かうとき、偶然にも、道路の向かい側にくるみが見えた。
くるみの姿を見て、正直に言えば、俺は泣きそうになった。
ただ、くるみは予想していた通り、俺を見ると青ざめて、すぐにもと来た道を走りだす。
そんな反応だったけど、俺はくるみのそんな姿を見て、やっともう一度始めることができるんだと嬉しくてたまらなかった。
「くるみ?」
「ひゃ、い!」
怖がるくるみを追い詰め、声をかけた。
予想通り、怖がってる。俺を男として見て、怖がっているのが嬉しいなんて。
「ここが、くるみがバイトしてる研究室? ふうん。『鈴鹿研究室』ね、鈴鹿って鈴鹿紫教授かな?」
―――自分も知っている教授で助かった。とりあえずすぐに教授に連絡を取ろう。
それだけは決めた。
そして今回は、最初から『本当の俺』でくるみに向かいあった。
くるみももうそんなことに驚きはしない。それすらも嬉しかった。
「さ、さぁ? なんのことだかさっぱり。……人違いじゃないですか? 私はくるみなんて変な名前じゃナイノデス」
―――俺がくるみを間違えるはずないだろう。
「俺が誰だかわかるよな?」
「だから人違いじゃ……? オレオレ詐欺は今どき流行りませんよ」
「こういうとき、ぶるぶる震えて怯えちゃって変わらないな。そこがまたイジメがいがあるんだよ」
震える首筋を撫でると、くるみがさらに震える。
「ひっ! や、やめ……」
「あぁ、変わらないなぁ。……あれから誰かと付き合った?」
「できるはずない……! あんなことするなんて私には無理だもん!」
くるみが涙目で振り返る。その解答に心底ほっとした。
くるみは5年間、誰とも付き合ってはいなかった。
「そう、それは良かった」
―――本当によかった。