秘密の多い私達。
社長の秘密 2
店内はどこもピカピカ。客層も何処かお上品。
見たことない外国製の商品。
まるで初めてスーパーに来たような気分で辺りを見渡す。
「ワインは好み?」
「酎ハイばっかりでお酒のことは分かりません」
「そうか。じゃあ口当たりが軽い甘めのほうがいいか」
社長は普段から利用するそうでさっさと欲しい物の売り場へ移動。
まじまじとずらっと並ぶワインを眺めている。
これは時間がかかりそうということで私は夕飯探し。
といっても惣菜を見繕うだけ。
仕事しつつ自分で作るというのが中々難しいのと。
作ったら作りすぎるのと。社長さんが草食で少食で殆ど食べない。
結果1人分買うほうが安いという結論。
にしてもおにぎり1つでさえも良いお値段。
「コンビニのと何が違うんだろう?コメ?たらこ?」
「あのー。すみません。丘崎さんですよね」
「はいっ?」
顔を上げてみると会社の人だというのはわかるが名前までは出てこない。
そんな微妙な距離感の女性がにっこり笑っていた。
外で会社の人と出会うケースは今まで無かったから慌てる。
「やっぱり。この辺に住んでるんだ?」
「あ。……え。っと。この近くの病院に用事で。そのついでに」
「そうなんだ」
ああ、この人わかる。わかるんだけど。毎日顔を合わせるのに。
配置された日に自己紹介されてるのに名前が全く出てこない!!
仕事に必死になるから。周囲なんか眼中に無いから。
こういう時に困るんだ。メモっとこう。
「お家この辺なんですか?」
どう会話をしたらいいか分からず名前も不明。
なので取り敢えずオウム返しに問いかけてみる。
「ええ。一人暮らしだと作り過ぎちゃうけどここには
単身用の材料が豊富だから」
「へえ」
チラっとかごを見るけど1人分にしては多いような?
肉も多いし、部屋に彼氏が来るのかも。と何となく思う。
「貴方も1人で大変でしょ。それとも実家?」
「部屋を借りてます。でも私は買ってきたお惣菜ばっかりで」
「そうなんだ。たまには料理してみるのもいいよ」
「そうですね」
どうかこの不毛な時間を早く終わってください。
と念じていたら彼女は去っていった。ああびっくりした。焦った。
仕事の後でもちゃんと料理して彼を待つなんて。
美人だしやっぱり相手は何処かのエリート社員とか幹部クラス?
当然結婚とかも視野に入れてるんだろうな。
私も彼女のようなどっちも出来る女性になりたい。で、
そのうち男性社員に声をかけられたりするかも? 仕事の合間に名刺を
渡されてその裏には個人用アドレスとか。飲み会でアピールされたり?
交流会でなくても他社と関わる機会も多い会社だから。
そんな甘酸っぱいOLライフがやってくるのかも!?
「そのあわよくばいい男に掻っ攫われたい願望は何処から来る?
女に都合のいい王子は来ない。少女漫画の読みすぎじゃないか」
「貴方のその能力のほうがよっぽど漫画ですよ」
「読まなくても顔に書いている。今も邪念がいっぱいだ」
「どうせ私は顔面から邪念を飛ばす女です」
どれだけ最高で良い男と交際していようとそれを誰にも言えないのだから。
ちょっとくらい乙女な妄想に耽ってもいいじゃない。
なんて言わないけど。ちょっとふてくされる。
いつの間にかワインを選んできた社長に持っていたカゴを奪われる。
重くなるから持ってくれるのは嬉しい。
けどそうなるとお菓子とか無駄なものを入れづらいから困りもの。
「それは買い過ぎだから棚に戻しておいで。太るしニキビも出来る。
そんな女は何処の国の王子でも避けるよ」
「見てくれじゃなくて私の内面を見てくれる人が王子になるんです」
「ほう。そうか。じゃあ今すぐ君の内面をじっくり見てやろうね。
それでこそ君の王子として相応しい男だ。……これで良い?」
「すぐに戻してきますっ」
まだ実感は無いけど嘘じゃないのは分かる。
乱用はしないとも思っているけど。
真顔で脅されるとやっぱりちょっと怖いです。
珍しく私の分も奢ってくれるということで先に店を出て待つ。
店の明かりや車や人の行き来は多いからまったく怖さはない。
無いけどそんな所でぽつんと1人はやっぱり心細い。
母親が買い物している間妹弟を見ているのは姉の私の役目。
あの騒がしさが懐かしいような余計に心細くなるような。