秘密の多い私達。
第4章
突然の恐怖
「何を驚いた顔してるんだ?君がフラフラと私の部屋に来て
我が物顔で勝手にベッドに入って寝たんだろ」
「……そっか」
たまにはそういう日もあるよね。はい解決。
「二度寝はしないほうが良い。ほら起きて」
「温かいから……、あと5分だけ」
「私の指示を無視するんだね?最初から遅刻する気と見做し
職務怠慢による減給にするけどいいかな」
「起きます!」
体を跳ねさせてベッドから起き上がる。朝の光が僅かに
カーテンからする薄暗い部屋。何時もはじっくり見ることはない
けど今日は少し余裕があった。といっても珍しいものなんて無い。
むしろ無駄なものは何もないシンプルすぎる部屋。
「ほら。行こう。ベッドに居たらまた眠りそうだ」
「はい」
眠い目をこすりつつ一緒に部屋を出てリビングで朝食の準備。
昨日の残りを詰めて弁当。
ダラダラせず30分早起きするだけでココまで違うとは。
余裕を持って家を出てたら焦ることがないからか気分がいい。
これって多分普通の人には基本的な話なんだろうけど。
「おはようございます」
「おはよう。なに?今日は機嫌がいい」
「そんなんじゃないんですけど」
「あ。彼氏宅にお泊りとか?」
「そ、そういうのはほんと夢です」
感激している所がまた子どもっぽいのだろうと思うと。
今頃社長室で笑われているのかも知れない。
新しい目標の元で機嫌よくスタートしたお仕事タイム。
「あの、丘崎さん。ちょっと時間いいかな」
「え?あ、はい。なにか」
そろそろお昼休憩の時間という所で声をかけてきたのは
違う部署の人。何度かすれ違ったような記憶があるから
多分営業さんだと思う。まさか渡した資料にミスでもしただろうか。
不安に思いながらも言われるまま部屋を出て一緒に廊下を歩く。
「もしかして朝提出した資料に何かありましたか?それだったら
責任者は別なので呼んできますし、私1人ではまだ対処が」
「君さ。聞いたけど社長の身内なんだろ」
「え。……え、ええまあ」
ズバッといきなり核心を突かれたような。心臓が痛む質問。
考えながら歩いたからか気づいたら廊下を歩き続け奥まで来ていた。
周りに人は居ない。左右の部屋は倉庫。
「午前中ずっと警察で事情を聞かれた。話を聞くというよりは
取り調べるって感じで。明らかに俺を疑ってる。でも俺じゃない」
「わ、私に言われても」
件の容疑者。この人だったんだ。
会社に戻ってきてるということは犯人ではないということ?
「確かに彼女とは遊びで付き合ったりはしたけど。
それで別れるのにタイミングを見計らってはいたけど」
「……」
突然の暴露タイムに私はどう対処すべきか分からないでいた。
相手の名前も知らないのにどうして彼は社長とのことを知っているのか。
でも何でこんな追い詰められないといけないのか。
「だからって毒入りのお茶なんか用意しない。んな目立つ所でしない」
「静かな所だったらやったんですか」
「と、とにかく。このままじゃ会社での信用が丸つぶれだ。
結婚にもひびが入る。社長に俺は無罪だと言ってくれないか」
「私がよく知らない貴方の話をしても信じて貰えないかも知れませんし。
ご自分で言いに行ったほうが」
彼の能力を使えばあっという間に言っていることが事実かどうか分かる。
「時間もタイミングもないんだ。刑事に散々尋問されて今度は
上司たちに呼ばれてる。今後の対応についての会議をするとか言ってるけど。
どうせどんな処刑をするかの話し合いだ」
「その前に社長に上手く言い繕って欲しい。と。私は新人社員でしかないし、
身内といってもそんな気楽に話せる立場じゃないですから」
家ではベタベタできても会社では線を引いている。
私が何か言って人事が動くことは多分ない。スケベオジサンは除き。
あと、貴方は本当に犯人じゃないの?と半分くらい疑っている。
「俺は犯人じゃない」
「そ、そんな近づいて来ないで」
オジサンに比べたら清潔感があってモテそうなルックスでは
あるけど、追い詰められているからか表情が暗い。
1歩踏み込まれただけで怖い。
思わず手を出して来ないでと自分をかばう動作をする。
「あ。ごめん。……とにかく、そう言ってもらいたいんだ。
もちろん無事に済むとは思ってない。ただクビは困るんだ。
家庭がある。社長まで俺を疑ったらもうどうしようもない」
「分かりましたから戻らせてください」
私がそう返事するまで脅すように少しずつジリジリと近づいてくる。
怖くて震えながら頷いてしまった。彼は素直にどいてくれたので
早足で廊下を戻って自分の席につく。
「大丈夫?」
「はい」
怖かった。寒気がして震えていると隣の先輩が気遣ってくれて。
でもこれで終わった訳じゃない。きちんと社長に連絡をしないと。
会議がある昼までにしないときっと恨まれる。
なにかされる。
昼休憩の時間がきても仕事の電話をするからと席に残る。
緊張する体を整えて受話器をとった。
『昼休みに内線電話で私にかけてくるなんて勇気があるね。
新人の君から報告を受ける案件は抱えていないんだけどな』
「直通を使うのは楽しい会話と決めてるので良くないかと思って」
『それで。どんな楽しくない話をされる?』
「……ぅん」