秘密の多い私達。
ふりだし?
午後からも何事もなく私は新しい仕事を覚えるのに必死で。
並行してあっちこっち走り回って雑用もこなし。
今ごろ何処かの部屋で偉い人が集まって会議が行われているのかなと
想像したり。件の秘書さんも居るのかな?とかモヤモヤと過ごした。
何となく気になって確認しても社長からの連絡は無いし。
そのまま夕方になって帰り際にあの男性社員が来るんじゃないかと
ちょっと不安になったけど。それもなく。
物語気分で事件に関わろうとすると怖い目を見るのは身にしみた。
とはいえもう何も知りたくないかというと。やっぱり知りたい。
「ただいま……と言っても社長はご帰宅なさってない。と」
社長業ゆえの付き合いで帰宅が夜中になる事も多々あるけど。
そんな場合は連絡があるからたまたま仕事の関係で少し遅いのかも。
家主の居ない静まり返ったリビング。
手持ち無沙汰で何となく目についた先日買ったばかりの社長の本を
ペラっと捲って見たらまさかの英文ですぐに戻す。
一緒にご飯を食べるという決まりもないし、勝手に食べても良い。
のだけど。何となくそんな気分にはなれなくて。
どれくらい時間が経ったのか。
ソファでゴロゴロしていると玄関が開く音がした。
「ただいま」
「お帰りなさい」
社長は買い物した袋を台所に置いて一旦自室へ戻り、着替えを
済ませ台所で夕飯の作業をし始めたので私も台所へ。
私がする作業なんて温めるくらいだけど。
電子レンジの前でぼーっと温まっていくのを見つめる。
何か言わなきゃと思いながら。
「彼の処遇が気になる?」
「はい」
私の気持ちを察したのか彼から聞いてくれた。
「解雇まではいかないが不適切な関係は事実だと認めているし、
幾ら追い詰められていたからって女性社員を脅す行為は見逃せない。
彼には地方の営業所へ行ってもらう。何年で戻るかは本人次第かな」
「つまり、犯人ではないんですね」
真実はではそう見えたんだ。
「残念だよ。犯人だったら幕引きが楽で良かったんだが」
「……」
「もう終わってるなら出したほうが良いんじゃないか?冷めるよ」
「あ。はい」
とっくに温め終えている電子レンジの音にも気づかなかった。
慌てて取り出してリビングに運ぶ。
あの人が犯人じゃないのならまた最初から見つけ直す事になる。
少し遅れて社長もリビングに来て忘れていたお茶を淹れてくれた。
「彼は君の趣味じゃないだろ」
「ち、違いますっ。ただ気になって」
「そう気に留めるほどの男じゃない。家庭があると自覚しながら
他の女性を弄んだんだ。しかも話が拗れると分かっていてどう相手を
大人しくさせるかの算段は実行こそしなくても色々と巡らせていたしね」
「酷い男の人って居るんですね。あ……私の家系もか」
「ああ、酷い男だ。きっと今頃地獄にでも落ちているさ。
何も知らない君たち家族を酷く傷つけ落胆させた罪は大きい」
「……創真さん」
私の祖父と社長の母親のことは誰もちゃんと話してくれない。
細かな事は分からない。今まで一度も会ったことのない弟が父には居て、
私には叔父がいたということだけ。
それだけでも十分な事実ではあるけれど。
「人間なんてどんなきっかけで罪を犯すかなんて分からない。
だから恐ろしくて。愚かで。信じる事が無駄に感じる」
「あの。実は……私罪を犯してしまいました」
「え?君が?どんな?」
「スーパーにあったお団子のバイキング。くっついてる団子を
1個取ったら実は小さいのがくっついてて。でもバレないかなって
そのままにして結局1個分の料金しか払ってません」
「今後もその店で買物をすることで罪を償うと良い」
「はい」
解決すると思った事件はまた振り出しに戻ってしまった。
いくら真実が見える力があっても犯人でなければ意味がない。
ただ人間の嫌な部分を見せられて辟易するだけ。
「あぁ。でも犯人は分かった」
「んふ!」
ご飯を一口含んだ所でまさかの解決宣言。
「すごい顔」
「……んん。分かったならあの刑事さんに連絡しないと」
「どうして。こちらから連絡なんかしたらやる気だと思われる」
「でも逮捕してもらわないと。大事な会社の問題ですよ社長!」
「母子共に酷い扱いしかされたことがない家から相続した会社だ。
私としては別にそこまで大事という訳でもないし愛着もないね」
「で、でも私の社会人生活がかかってる大事な会社なんですから!
何かあったら再就職は厳しいし……仕送りも出来ないっ」
「……」
「すみません。つい声が大きくなっちゃって」
ご飯持ったまま何言ってるんだろう自分。
会社は安泰なのにそんな不吉なこと言うのは良くないのに。
「気にすることはない。君の声が大きいのはここだけの話じゃないから」
「え。会社でもそんなに大きいです?うわ気づかなかった…」
「壁は厚いから心配要らない。私としては非常に可愛い個性だと思ってるし」
「……」
さらっと恥ずかしいことを言われたような。
でもここで反応したら意地悪が続きそうなのでぐっと我慢。
私は気にしてませんアピをしつつ無言で夕飯にかじりつく。
「ほっといても向こうから連絡が来る。その時に話す」
「そうしてください」
「あ。そうだ。君が友人と出かける日は私も出かける予定を立てたんだ」
「豪華ホテルステイですか?」