秘密の多い私達。

重い体



 怪我はそそっかしい性格ややんちゃな妹弟が居るからよくした。
けど、他人から突然掴まれたり押されたりするのは生まれてはじめて。
 子どもに手を上げる事なんて一度もない親だったし。

 だから今床に倒れて擦りむいた膝が痛いのが信じられなくて。
 
「ママが予定早めるっていうからさっさと終わらせるよ。
じっくり弱み握る計画だったから残念だけど」
「弱みしかないから突っ込みようがないよね」
「ほんと」

 恐怖と痛みで混乱する私の目の前には背格好がよく似た青年。
片方は社長の甥っ子の慧人。もう片方は居なかった悠人のほう。

 彼らの登場により「なんで?どうして?」という疑問は解決。
だけどどうやって入ってきた?彼らはスーツでもない。確か母親も
 すんなり社長室まで行けたそうだから高御堂家だと顔パス?

「ラブホ写真切り抜いて叔父さんに送ろうかと思ったけど」
「丁度この前の叔父さんと部屋に入る写真もあるし。会社やネットの適当な
掲示板にでもばら撒くよ。相手募集、とかで。今回は助けは無いよ?」

 社長との間に上司と部下以外の何もなけば。既婚者でもないから
それほど問題にもならないけど、私は強くは出られない。流石にストレートに
 そこを突くと社長にもひびくから避けたようだけど。

「嫌なら会社を辞めてお家に帰って自分に合う仕事を選ぶ」
「世の中は広いんだから選択肢は豊富だよ」

 兄弟そっくりな顔で私を見ながらニコニコと笑ってる。
 恐怖で腰が抜けて立ち上がることすら出来ない私を。

「貴方達は創真さんがどんな気持ちか考えた事あるの?」

 何がそんなにも彼らを駆り立てるのか素朴な疑問。
父性が豊かとも正直思えず。

「悠人って昔からカンが鋭くて無くしものとか見つけるの得意でさ。
喜ぶと思ってその力を使うんだけど、気持ち悪いって父親は殴るんだ。
だからコイツ片耳が聞こえづらくなって。ママは何も出来ない言いなり」
「……」
「こう言うと大体の人間は君みたいに黙るんだよ。
悪いこと聞いちゃったな。とか。何を言うか困るなって。
けど、叔父さんは”心配しなくていい”って言ってくれた」
「僕達のこと分かってくれてる」
「だから父親になってもらいたいの。安心…出来るから」

 はっきりとはしないけど、もしかして彼らも同じなのかも。
 だったら同じ者同士側にいたくなる…のかな。

「せっかく父親が消えてくれたんだからママも心置きなく一緒に居られる。
僕には分かるんだ。ママが叔父さんにずっと好意があったこと」
「悠人君。……じゃあ、叔父さんの気持ちは読めている?」
「分からない。僕よりウワテみたいだ」
「わからないんだよね?じゃあそこから」
「それで3年も棒にしたんだ。おまけに最近妙なのがママに付きまとってる」
「僕らの事を考えて父親が必要だって思ってるからそんな好きでもないのに」
「お母さんを大事に思う気持ちも叔父さんを慕う気持ちも理解は出来るけど」

 それで私は諦めきれるかって言うと別の話。さっきはもう全部諦めるような
事を口走ってしまったけど。いざその立場に追いやられたらやっぱり、嫌。

「脅すだけじゃ駄目か」
「思ってたよりしぶといな」
「誰かを好きになった事ないの?」

 好かれたことも、ないの?

 乱暴な行動や卑怯な事をしてしまうのはもしかしたら彼らの
父親の影響もあるのかもしれないけど。だからこそ辞めようってならない
 のはどうして?お金持ちの環境?でも社長はそんなんじゃない。

「悠人。お前撮れ。俺がやる」
「でも」
「俺達は提案をしてやったのに彼女は他の大人と一緒だ。説教しかしない。
自分の立場が分かってないみたいだから。最終手段だ」
「慧人」

 私の問いかけに返事をする気はないみたい。
 そして慧人君がポケットからスマホを取り出して悠人君に渡す。

「大丈夫。これも計画の為。邪魔者を排除するのは俺の役目」

 じっと私を見る目が本気だった。

 背筋がゾッととして、これから危害を加えられるのだと察しても
私の体が動かなくて。そしてその様子を動画で撮られて、それで脅される。
 とにかく逃げようと足掻いてはみたけれど殆ど動かない重い体。

「……創真さ…ん」


 助けて。


「5分くらいで終わらせるから暴れないでくれよ」

 そのセリフとともに彼の手が私の肩を強めに掴んだ。

 もう駄目なんだ。

 と目をギュッと閉じて意識を失う。



「会社のセキュリティを見直す必要があるな」
「何だ急……いたたたたっ」
「慧人!」

 肩を掴まれたまますっくと立ち上がりその手を掴んで剥がす。
女の力とは思えない強い力で。
 何が起こったのかと2人が視線を向けると同時にパンッといい音を
立てて思いっきり頬を打たれた。慧人に続いて悠人も。

「いい加減にしろ!こんな事をさせるために見逃した訳じゃない!」

 ドスの効いた低い声で叫ぶ。まるで別人。
 悠人はよほど驚いたのか腰を抜かして地面に倒れる。

「お……お…叔父さん?」
「え?」

 だが目の前にいるのは若い女。

「一度しか言わないからよく聞け。咲子は俺の女だ何処へも行かせない。
こんな事は二度とするな。母親に一生会えなくなったら嫌だろう?」
「……は、はい」
「はい……」
「あともう1つ。二度と咲子に気安く触るな。その場で指飛ばすからな」

 半泣き状態の2人を置いて悠々と部屋を出る。
 廊下に出た所で。

「丘崎さん!何処行ってたの!遅いから心配した!」
「……君、…を……医務室」
「え?なに?医務室?」

 後に先輩が言うには何処かへ指をさしてそのまま倒れたらしい。
でも私は怖くて目を閉じた所までしか記憶にないから何のことかさっぱり。
 気づいたら医務室、ではなくて何時かお見舞いに行った病院。

 まさか私がここのベッドに寝ることになるなんて。
 目覚めると何故か手と喉の痛みがあった。

「……創真さん手」

 彼が付き添ってくれているのは嬉しい反面。その手に包帯。

「説明する」
「あと甥っ子さんたちは」
「警備室で反省文を沢山書かせている所」
「私」

 彼に酷い目に。それを録画されて。

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