秘密の多い私達。
違うということ
今感じられる痛みは手や足の擦り傷くらいで喉が痛いのはもしかしたら
恐怖で叫んだのかもしれないけど、具体的な内容が記憶にない。
それくらい酷い目にあっていたのかもしれない。
気づいたら病室でベッドに寝ていて彼が見つめていた状態だったけれど、
なんて言えばいいんだろう私。
「心配しなくても彼らは君を傷つけたりしてないから」
「創真さん助けてくれたんですか?もしかしてその時の傷?」
颯爽と助けてくれたなんてかっこいいシーンを見逃すなんて。
本当にもう駄目だと思ったから。顔向け出来ないって。
「君が心配だったから内緒で警備をお願いしていたんだ。…警察に」
「個人的な事なのによく引き受けてくれましたね」
「当然朝から呼び出されて3件ほど事件の”アドバイス”を依頼されたよ」
「九條さんに言ったんですね。あ、それで今朝」
あんなに急いで家を出ていったんだ。ややピリピリしてたのも、
嫌がってた事件を引き受けたから。
「散々陰湿な話を聞かされて辟易しながら会社に来たんだけど、
何となく胸騒ぎがして彼らの様子を電話をして聞いたら」
「わからないって?」
「会社に居る事は把握していたよ。でも事件でもないのに会社に入るのは
難しいとかで外で待ってたそうだ。会社なら人も居るし安全だろうって。
あいつの部下は融通が効かない」
「でも高御堂家の人はすんなりと入れるんですよね」
経営者の家系なら当然、なんだろうけど。
「彼女たちの事情を踏まえ敢えて有耶無耶にしていたから。
すんなり信じてしまう。特に長男の家族では無理もない」
「……」
「それも修正した」
頭を優しく撫でられて心地いい、けどまだ謎はある。
「社長室から私の居たフロアまでかなり時間かかりますよね?」
「それは」
「気を使ってくれているのなら気持ちは嬉しいですけど嘘はつかないで。
動画さえ消してもらえたらそれで」
「消したよ。あれを保存されてはお互いに困るからね」
「……」
心臓がキュウゥンっと締め付けられる。当然物凄く悪い意味で。
途端に顔が熱くなって手が微かに震えて目が潤んでくる。
ああ、不味い私悲しくて泣きそうなんだ。瞬きしたらこぼれ落ちる。
「咲子は困らないから泣かないで良いんだよ?」
「でも私が録画されてるのに」
「映っているのは見た目は君なんだけど中身は私で。彼らとのやや問題の
ある会話をしているものだから。彼らもすぐ消した」
「は?」
それってどういう意味?キョトンとする私の涙をハンカチで拭いてくれて。
「前に言ったろ。私に心を許すのは良くないと。……つまり。そういう事」
「どういう……、あ。乗り移るんですか。幽霊みたいな感じ?」
「ではなくて、そうだな。私は椅子に座っているんだけど君の視線も見れて
行動も言葉も指示できる。遠隔操作のようなものかな」
「私を操って問題のある会話って……え。え?」
この人もう何でも有りじゃないですか?
言葉に詰まる私に彼は苦笑して。でも、酷く悲しい目をする。
「流石にこれは君も怖がると思ってやりたくなかった。隠したかった。
けど、それ以上に私のせいで君が汚されたらもっと辛い。
君が私を人と認識しなくなっても心が離れてしまっても仕方ない」
「創真さん」
「こんな力あっても困るんだよ。何も得をしない。ただ孤独なだけで。
出会う人間からは愛情を押し付けられたり嫉妬されたり……、うんざりだ。
その前に私が人間だと誰も気づいてくれない。見てもくれない」
あの子たちと似ている。けど。少し違う。
「私良い事を考えました!新人OLの遠隔捜査ファイルっ」
「……えっと?」
「創真さんの頭脳と私の行動力が合わされば事件なんて即解決です」
「まだ考えてたんだね。そのシリーズ」
「助手とかヒロインより2人で一緒に頑張ってる感じがあっていい」
「……はははっ」
「駄目?」
「君が危険だから絶対嫌だけど。でも、うん。感じは確かにある」
初めてかもしれないくらいに破顔して笑っている。そんな面白い事を言った?
彼の能力は教えてもらうという話だったし。他にも何かあるのは分かっていた。
体が歪に変形するとかだと流石にちょっとは怖いかも知れないけど。
私は彼が怖くない。……怒ってたら別。
「彼らと会話してみませんか。自分たちの言葉で、しっかりと。
創真さんの力のことを言ってないですよね?それも含めて」
「深く関わっていけばそれだけ彼らは親しい私に救いを求めるよ」
「ほっておいたら私今度こそ酷い目に合う気がする」
「なるほど。それもあるかもね」
「でしょう?根本的な解決はやっぱりお互いのわだかまりを」
「そうなる前に息の根を止める」
「叔父さん怖い」
血縁関係は無いけど一応叔父さんは叔父さんでしょう?
お顔がやけに本気ですけど。もちろん冗談の類ですよね??
「仕方ない。何であろうと咲子に勝手に触れる者は許せない。
やろうと思えば消してしまえるし何時もその衝動と戦っている」
「負けないでくださいね。私、まだまだ会社で頑張りたいです」
「君の同級生の経営している居酒屋は何処にあるか聞いてもいいかな」
「絶対駄目です。心ブロック!読まないで!」
「……ふふ。冗談だよ。今後は君に何もしない。誓う」
「遠隔捜査……。はい。信じます」
颯爽と事件解決するビジョンにはまだちょっと未練があるけど。
でも、今はそれよりも彼にぎゅってされる方が良い。
怖い思いも寂しい気持ちにもなったけど、全ては私のためだった。
使いたくない力を使ったのも私を守るため。
あの2人と違うのは彼にはこれからも私が居るということ。
「あ。大丈夫そうで良かった」
病室で存分に甘えているとドアをノックされたので返事をすると
花を持って入ってくる九條さん。
「大丈夫じゃないです」
「好きな部位を言ってご覧。弾け飛ぶ様をみせてあげよう」
「ちょっと待ってよ!俺の言い分も聞いて欲しいな!」
「頭」
「咲子ちゃんも言うねぇ~さすが姪っ子…じゃない!じゃないって!
こっちにくるんじゃないよ秋海棠君!」