秘密の多い私達。

6:とある彼氏のリミッターについて


 彼氏がちょっと年上って所意外は完璧。まさにスパダリ。

 実は非公式の叔父だという事は私たちが黙っていれば案外なんとか
なるもので。会社の上司であるがゆえに同僚たちに彼氏マウントされる
 ばかりで気軽に恋バナができないのは寂しいが。

 と、ここまでは私達が順調に乗り越えてきた「日常」だ。

「どうかしたの咲子ちゃん?何か上に」
「い、いえ。何でも無いです」
「君には何時も世話になってるし。今度一緒に食事でも」
「あ!いけない!ロッカーに忘れ物をしてきました!失礼します!」
「ああ、……はは。相変わらず慌ただしい子だな」

 会社内で行われる交流会の一つ。ボウリング。他の会とちがって
非常に地味で仲間内で遊ぶ感覚。古株ばかりで若い子はあまり参加したがら
ないと一時期は別のものにしようかと話し合いがされていたが
 最近になって参加者が増えたらしく続行。

 私は初めて参加するという後輩たちにお願いされて一緒に来た。
 なんでも彼女たちの直属の上司のチームに誘われたとかで。

 その人が私も少し知ってて声をかけてきた訳なのだけど。

「そんなに急いで走ってこなくてもいいのに」
「す、凄いボワーって!駄目じゃないですかっボワーって!」
「何の話し?」
「創真さんボワーって」
「ははは。咲子は急ぎすぎて語彙力を落としてきたのかな?」

 一番の目的は彼氏も専務や常務に誘われて来たから。

彼らの場合はボウリングではなくてその上階でやるビリヤードだけど。
 私が必死に駆け上がった二階にはニコニコしている社長しかいない。

「あの、他の皆さんは」
「煙草」
「ああ。……そっか。良かった」

 二階からはクリアに下階が見えるようになっている。
要するに彼の目には私の行動は監視しやすいということ。
 何気なくチラっと上を向いたら

 彼氏が無表情でこちらを見下ろしていて。
 手に持ってたビリヤードの棒が勢いよく燃えてた。

 私との関係により自分でも気付いてない能力が開花したらしい。

「君は後輩たちと一緒に帰るんだろう?私はもう少しゲームをしていくよ」
「創真さん。この前はコーヒーがブワアって立ち上がってた」
「そうだったかな」
「私が雨の日に先輩に車で送ってもらった日」

 何時もと違う匂いがする、というのでその説明をしたら。
淹れてくれたコーヒーがマグカップからブワーッとなった。
 語彙力は確かに無い。けどそれが事実だから。

「もしかして気持ち悪いと思ってる?」
「それはない」
「怖い?」
「何時か私の頭がパーンするかもっていう恐怖はある」
「咲子」
「そんな事よりももし誰かに見られたらって思うと心配で。
外国の凄い研究施設に閉じ込められて実験台にされてモルモットで」
「落ち着いて。大丈夫だよ、私もそんな迂闊なことはしない」
「ですよね。創真さんは冷静だから」

 私が不安がってどうする。信じて、普通に愛を育めばいい。
警察さんもバックにはついているわけだし。あの人はちょっと怪しいけど。
 何も怖がることなんてないけれど日々能力が進化してる気がして。

「複数は無理だけど二人くらいならいざとなれば記憶改ざん出来る」
「……」
「といっても数秒程度だと思うけど」
「やったんですか」

 やけに詳しい。ということは実証済みってことだよね?
 彼の顔を見るとぎゅっと抱きしめられた。

「君には何もしない。若い頃の話し」
「創真さん何でも出来すぎ」
「でもね咲子。君のことになると私は無力なんだから」
「貴方の前では何時でもお腹見せて白旗もあげてるのに」
「それは私も同じ」
「ビリヤードはかったら何が貰えるんですか?
ボウリングは団体戦で1位は温泉旅行なんですけど」
「こちらは趣味の一環だからね。特に決めてない」
「大人だな」

 ちなみに私たちは皆して弱かったのでボロ負けして即終了
よって開始してすぐに暇になってしまった。
 後輩たちはそれほど興味も無かったので喜んでいるけど。

「帰りはまたあの先輩君に乗せて貰うのかな」
「ご安心ください。ちゃんと後輩ちゃん運転で帰ります」
「ふーん」
「何ですかそのフーンて」
「私は乗せてくれないんだろうね」
「駄目でしょ普通に」
「残念。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「創真さんが守ってくれるから安心」
「ははは。……念を飛ばすのは骨が折れるんだけどね」
「出来るの!?」
「冗談だよ」

 いや、頑張ったら出来るでしょう貴方なら。

 恋をすると世界はバラ色になるって言うけれど。
 私の場合は日常が非日常になる。


「……一回思いっきり嫉妬させたらどうなるかな」
「先輩?」
「あ、ううん。なんでもない。帰ろう」

 世界の平和のためにも気をつけよう。

 翌週、ちょっとした事で社長室の扉が吹っ飛ぶことになるが
 それはまた別のお話。
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