秘密の多い私達。
とある葛藤の記録 解決編?
「社長は只今所用で社外に出ております。
ご要件はお伺いしましたので。何か問題があれば
後ほど折り返しお電話さしあげますので」
ニッコリと。でもどこか毒を孕んだ言い方で社長秘書に追い出される。
せっかく運んできた重たい荷物はきちんと人に運ばせておいて。
知的な美人だけど絶対同性の友達は少ないタイプとみた。
「社長の所用ってなんだろうな。上から何も聞かされてないけど」
「だよなぁ。俺ら指示を受けたから重たい荷物持って行ったのに」
「だよな。丘崎さんも悪かったな」
「いえ」
エレベーターで不満が出るが気にしないようにして。自分の部署へ。
社長が外へ出るのは珍しくはない。仕事かもしれないし今は警察の手伝い
という可能性も有るわけだから。
ただ社長に会えると思って敢えて挙手して重い荷物を持っていったから。
残念な気持ちはある。から、後で何か奢ってもらおう。
「学生時代はテニス部?それともバレー?」
「え?どうしてですか?」
突然そんな声をかけられて視線を向けると一瀬。
「あんな重い荷物もって社長室まで行くとか。他の女子は嫌がったのに」
「仕事ですし。そこまで重いものは持たされてませんから。あと学生時代は
ずっと帰宅部です。部活してたらもっと痩せて……何でも無いです」
「そうなんだ。きびきび動くからなにかやってたのかと思ってた」
「色々バイトはしてましたけどね」
「俺も部活より家の手伝いでさ。食事やオヤツまで残り物ばっか食べてて。
野菜メインの店じゃなかったら今頃俺は凄まじく太ってたろうなぁ」
「健康的な食生活で良いですね。私の家なんて……、って。すみません。
私余計なことばっかり言ってる。行かなきゃ。それじゃ」
「ああ。またね」
慣れというのは怖い。一時期よりだいぶ気さくに一瀬と喋っている。
もっと警戒しないといけないのだろうけど。そこは営業の強みなのか
心の隙間をぬってくるような感じで自然と会話してしまって。
相手も最近は露骨に誘っては来ない。いや、気付いてないだけ?
注意を受けるレベルではないにしろあまり彼と話すのは良くない。
彼を狙っている女子からの視線も痛いし。オジサン社員のからかいも冷や汗をかく。
何よりもっと仲良く話したり会ったりする関係になったら?
もちろんそれ以上にはなり得ないのだけど。
「何を怖がってるのかな私。もしかして自意識過剰かな」
咲子に恋人が居ると知っているし男女関係なく誰にでも仲良く接する人は居る。
無駄に意識するほうがかえって変な空気になるから良くない。
社長に会えなかったから寂しいと思っているのかも。会った所で二人きりじゃない
から笑って「お疲れ様」と言われて終了ではあるけれど。
「やあ。咲子」
「やあ。じゃないですよ何ですかランチ食べようって」
「そのままの意味だけど?」
昼休憩に入る一分前にメッセージがあった。少ししてから気づいて。
慌てて指定されたお店へ入ると奥の席で座って待っている社長。
「社長の奢りですからね」
「機嫌が悪いね。何かあった?」
「別に何も」
自分だって事件のことや教えてくれないことの方が多いのに。
「本当に?…何だか君らしくない隠され方をしてる気がする」
「何でも疑い始めたらキリがないですよ。このお話は終わり」
「そう。だね」
「それより創真さんにあーんてされたい」
「良いけど君もしてくれる?」
考え始めたら闇が深すぎて嫌になるからそれよりは甘えたほうが良い。
料理が来るとまずは相手からあーんと一口。
それからお返しに咲子からも。
「創真さんのモグモグ可愛いもっと食べて欲しい」
「もぐ……。いや、後は自分のペースで食べるよ」
「えぇ」
「休憩時間も有限だからね。食事を終わらせて君とゆっくりしたいんだ」
そう言われては従うしか無い。ということで無心でランチを平らげて。
食後のアイスコーヒーも頂いた。全ては社長の奢りで。
「実は社長室に来るのは二回目です」
「そうみたいだね。秘書のメモがあった」
厳密には社長室の目の前までで中には入ってないけれど。
社長と一緒なら気兼ねなく簡単に入ることが出来る。
秘書さんたちは休憩中で丁度奥の部屋に居て見られていない。
咲子は社長の椅子に座って大きく背伸びする。
この席はとても心地がいい。
「社長はお出かけしてたから」
「機嫌が悪かったのはそのせい?きちんと説明するから座って良いかな」
「はい社長」
立ち上がって持ち主に席を返すと咲子の手を引いて膝に座らせた。
「実は最近自分の力が制御できていない気がしていて。
誰かに話しを聞いてもらおうと思ってカウンセリングに行ったんだ」
「大丈夫でした?変な人扱いされたんじゃ」
「社長業は心身共にすり減らすからストレスを発散したほうが良いと言われたよ」
「ほらやっぱり……あ。あの?社長?そういう発散はお家でしたほうが」
なにやら咲子の体を服の上から弄る手。
「まだ一五分ある」
「一五分しかない」
「問題ない。咲子が可愛いければそれで全て良しだ」
「よ、よくないぃいっ」
静かに。と無茶な事を言われながら一五分という中途半端な時間で
社長の為に頑張ったと思う。
もしかしたら自分の中にある後ろめたいものを見透かされてお仕置き
されたのかもしれないけれど。それは考えないでおく。
「社長。いつの間にお戻りに」
「気にしないでいい。それより仕事が積んでいるようだ。
気晴らしも出来たし頑張らないとね」
「少し心配していたんですけど、お元気そうで良かった。社長」
終わり